“96年のメタラー”は何を意味する? 『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』のメッセージ

『ジュマンジ』のポジティブなメッセージ

 そして、ここで再び現実の96年に目を向けてみよう。ロラパルーザから門前払いを受けたオジーだが、「じゃあ自分でやるよ」と自らメタル専門のフェスを開催。メタルはもう時代遅れと思われていたが、フタを開けてみれば客が詰め掛けた。メタル健在を世に見せつけたこのフェスこそ、今なお続く「オズフェスト」である。オズフェスの「大御所から若手まで、とにかくメタルっぽい人をかき集める」という寛大な帝王のスタンスは、世代やジャンルの壁を超える交流を促し、メタラー間の繋がりを強めた(後に、ももいろクローバーZを呼ぶ珍事も起きるが)。メタルを絶滅から救ったと言えば大袈裟だが、ジャンルの存続に一役買ったのは間違いない。そしてジュマンジを脱出したアレックスは、恐らくオズフェストの成功や、そこからのメタル・シーンの発展を大いに楽しんだのだろう。そんな彼のメタラー人生が、さり気なく、しかしハッキリと暗示されるシーンは何とも微笑ましい。

 『レスラー』は過去の栄光とともに悲劇へ走る映画だった。一方『ジュマンジ』は今を生きようと奮闘する映画だ。「96年のメタラー」という極めて微妙な時代の若者を登場させることで、観客が生きる現実のメタル史と繋げながら「とりあえず生きていれば、案外いいことがある」と、ポジティブなメッセージを描いている。ちなみに本作の主題歌はガンズ・アンド・ローゼズの名曲「Welcome to the Jungle」(そのまんまである)。『レスラー』の「Sweet Child O' Mine」は恋人への愛を歌いながら、「俺たちは何処へ行くのだろう?」と一抹の不安を感じさせるバラードだ。一方の「Welcome to the Jungle」は過酷な現実をジャングルに喩え、その中で生き抜くことを歌う挑発的かなゴリゴリのロック・ナンバーである。

■加藤よしき
ライター。1986年生まれ。暴力的な映画が主な守備範囲です。
『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』に記事を数本書いています。

■公開情報
『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
監督:ジェイク・カスダン
出演:ドウェイン・ジョンソン、ジャック・ブラック、ケヴィン・ハート、カレン・ギラン、ニック・ジョナス、ボビー・カナヴェイル
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:http://www.jumanji.jp/

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