『娼年』は女性の性的欲望を可視化して賞賛する 松坂桃李、覚悟の演技が生んだ説得力

『娼年』松坂桃李の説得力

 彼は、2016年8月に同じく三浦大輔脚本・演出によって上演された舞台版『娼年』でも主役をつとめた。上方からも四方八方から観客に見つめられる構図で設置されたステージの上で、松坂桃李は幾人もの女性とセックスを延々と続けた。舞台特有のライブ感と緻密に計算された役者たちの動きは、それが擬似であるという意識を曖昧にし、まるで本当に行為が行われているのではないかと錯覚さえさせた。生々しいリアルな音や、露わになった裸体に、戸惑いをおぼえた観客もいたかもしれない。画面越しに眺めるわけでもなく、ひっそりと覗き見するのでもなく、他人の生のセックスを目の当たりにしているような稀有な体験をもたらした舞台『娼年』は、衝撃という他なかった。

 一方、目の前で行われる行為の一部始終を、一定の距離と同角度の視線で見つめ続ける舞台とは異なり、映画は観客の視線を担うカメラが、近寄ったり離れたりを繰り返し、行為を刻む。絡み合う舌、肉体を滴る体液、接合部、臀部の痙攣が拡大される、あるいはつながった二つの身体が俯瞰で映し出される。一つ一つの行為が丁寧に描かれていくことによって、そこで生じるリョウの成長や変化とシンクロし、我々は性的興奮だけではなく感動さえおぼえるのだ。

 女性(男性)たちの多様な欲望と、それを全面的に肯定する天使的な娼夫が描かれた『娼年』は、松坂桃李の紛れもない最高傑作であり、努力と覚悟の結晶である。

■児玉美月
大学院ではトランスジェンダー映画についての修士論文を執筆。
好きな監督はグザヴィエ・ドラン、ペドロ・アルモドバル、フランソワ・オゾンなど。Twitter

■公開情報
『娼年』
TOHOシネマズ 新宿ほかにて公開中
出演:松坂桃李、真飛聖、冨手麻妙、猪塚健太、桜井ユキ、小柳友、馬渕英里何、荻野友里、佐々木心音、大谷麻衣、階戸瑠李、西岡德馬、江波杏子
脚本・監督:三浦大輔
原作:石田衣良『娼年』(集英社文庫刊)
製作:小西啓介、松井智、堀義貴、木下暢起
企画・プロデュース:小西啓介
エグゼクティブ・プロデューサー:金井隆治、津嶋敬介
プロデューサー:永田芳弘、山野邊雅祥、藤原努、石田麻衣
製作幹事:ファントム・フィルム、ハピネット
制作プロダクション:ホリプロ
企画製作・配給:ファントム・フィルム
レイティング:R18+
(c)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
公式サイト:http://shonen-movie.com/

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