ただのティーン向けキラキラ映画じゃない 漫画原作への偏見を覆す『坂道のアポロン』の強み

偏見を覆す『坂道のアポロン』の強み

 それでも、本作にも主軸のひとつに恋愛要素が絡んでくるのだ。薫は律子に一目惚れをし、律子は千太郎を愛おしんでいる。ところが千太郎は海で出会った深堀百合香(真野恵里菜)に一目惚れし、その百合香は千太郎が慕っている淳一と恋仲であったということが発覚する(この辺りの関係性は原作から少し脚色されているようだ)。

 このあまりにも複雑で一方通行で繋げられた恋愛の描き方は、いかにもな少女漫画展開のひとつである。しかしそれを細かく見ていると、あくまでも本題である“青春”に作用させていることがわかる。薫と千太郎は2人とも“一目惚れ”をするという共通点を持ち、薫は律子を誘う電話のシーン、仙太郎は屋上でおにぎりを食べようにも食べられないと、実にベタな恋煩いを発揮。性格こそ対照的な2人が音楽と同じように共鳴し合う部分としての“恋愛”が活きる。

 そして何よりも、この複雑な恋愛群像に関わっている全員が複雑なベクトルをかき消すほどわかりやすく、自身の心情を表情で物語ってしまう点だ。律子の恋心、それに気づく薫、仙太郎の鈍感さ、淳一と百合香の明らかな気まずさ。恋愛映画には登場人物だけでなく、観客も巻き込んだ駆け引きが必要だが、青春映画にはそれをさせる必要がない。

 オーソドックスな見せ方で、少し懐かしささえも感じさせるほどまっすぐで不器用な恋模様と感情表現こそが、本作の青春要素をさらに強めようとしていくわけだ。もっとも、最近の高度な恋愛テクニックが炸裂する“キラキラ映画”で感覚が麻痺してしまっていると、かえって煩わしい描写とも思われかねないだけに、大冒険といえよう。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『坂道のアポロン』
全国公開中
出演:知念侑李、中川大志、小松菜奈、真野恵里菜、山下容莉枝、松村北斗(SixTONES/ジャニーズJr.)、野間口徹、中村梅雀、ディーン・フジオカ
監督:三木孝浩
脚本:高橋泉
原作:小玉ユキ『坂道のアポロン』(小学館『月刊flowers』FCα刊)
製作幹事:アスミック・エース、東宝
配給:東宝=アスミック・エース
制作プロダクション:アスミック・エース、C&Iエンタテインメント
(c)2018映画「坂道のアポロン」製作委員会 (c)2008小玉ユキ/小学館
公式サイト: http://www.apollon-movie.com/

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