三木孝浩が語る、ティーンムービーにとどまらない『坂道のアポロン』の挑戦 「台湾青春映画の熱量に近い」

三木孝浩が語る、『坂道のアポロン』の挑戦

 『月刊flowers』(小学館)にて連載された小玉ユキの同名コミックを実写化した映画『坂道のアポロン』が3月10日より公開される。Hey! Say! JUMPの知念侑李が主演を務める本作は、父を亡くし、親戚が暮らす長崎県・佐世保に引っ越してきた孤独を感じる高校生・西見薫が、“札付きの不良”と恐れられるクラスメイトの川渕千太郎が心優しいクラスメイトの迎律子と出会い、一生ものの友達と一生ものの恋、そしてジャズの魅力を知っていく模様を描いた青春映画だ。

 今回リアルサウンド映画部では、監督を務めた三木孝浩にインタビューを行った。人気原作コミックを映画化するにあたって意識したことや、知念侑李らメインキャストについての印象、さらには人気コミックの映画化作品を成功に導く秘訣やオリジナル作品への意欲まで、じっくりと語ってもらった。

「ティーンムービーにとどまらない、大人も観られる作品にしたかった」

ーー最初に本作の監督オファーを受けたときの率直な気持ちを教えてください。

三木孝浩(以下、三木):もともと原作自体は知っていたのですが、アニメ版のクオリティが相当高いという噂を聞いていて、非常に気になっていた作品でした。渡辺信一郎さんが監督、菅野よう子さんが音楽を担当されているアニメ版を実際に観てみたら、音楽の表現の仕方が、それまでのアニメとは一線を画すほどすごくて。その後、何年かしてから実写化の企画をいただいたのですが、完成度の高いアニメ版の存在に加えて、実写で昭和の年代の子たちがジャズのカッコいい部分を表現できるとは思えなかったので、最初は正直、及び腰だったんです。でも、以前『くちびるに歌を』で長崎の五島列島で撮影したとき、その場所が持つ独特の雰囲気がとても心地よかったので、今回も佐世保という舞台設定に惹かれたところがありました。そして何よりも、僕自身が大好きな“音楽もの”であることが大きかったと思います。

ーー三木監督はこれまで音楽ものの作品を多数手がけられてきましたが、ジャズという意味ではまた新しい挑戦でもありますよね。

三木:そうですね。僕自身これまではどちらかというとロック寄りで、ジャズはあまり触れてこなかったジャンルでした。だからこそ、主人公の薫と同じように「ジャズって面白いな」と入口から一緒に入れるところがありました。ほかの音楽と違って、決まりごとを演奏するのではなく、その場で感じたことや気持ちを即興で音にするのがジャズの楽しさでもあるので、それを表現できたらいいなと思いました。

――今回の作品では過去と現在とが描かれますが、昭和が舞台というのも三木監督にとっては新鮮な気がしました。

三木:それは僕の中でもチャレンジでした。原作コミックもそうなのですが、昭和の時代が持つ熱量が重要で、今の時代で描いてしまうと、どこか冷めたものになってしまう気がしたんです。僕は『あの頃、君を追いかけた』や『モンガに散る』など、台湾の青春映画が好きなのですが、台湾の青春映画もちょっと前の時代を描いているものが多いんですよね。若い子たちが本気でぶつかり合う、熱い南国の台湾の青春映画の熱量はこの作品にも合うような気がしましたし、時代感が助けてくれると感じました。昭和は若い子にとっては知らない時代だし、ある種ファンタジーでもある。新しいものを見る感覚で、ファッションや時代感を楽しんでもらえるのではないかと思います。

ーー“台湾の青春映画”というキーワードを聞いて、すごくしっくりきました。今回の作品には、そういう要素が詰まっていますね。

三木:僕も「この感じはなんだろう」と思ったときに、パッと思い浮かんだ風景が台湾だったんです。最初に映画化の企画をいただいたときに、もしも今の時代で描くなら台湾で撮ってもいいなとも思ったんですよ。設定を変えて台湾の役者と場所で撮っても成立する話だと思ったぐらいでしたから。

――原作との違いでいえば、構成が変わっていますよね。大人になった薫が回想する形で物語が進んでいく展開は、脚本の高橋泉さんと相談しながら決めていったのでしょうか?

三木:そうですね。原作は少女マンガではあるんですけれど、男性ファンも多い作品なんですよね。だからこそ、ティーンムービーにとどまらない、大人も観られる作品にしたいと思っていたんです。そういう意味でも、主人公たちの高校時代だけを描くのではなく、大人の視点から振り返る構成にしたいとは、最初から高橋さんと話していました。

ーー今回初めてのタッグとなった主演の知念侑李さんは、ピアノの演奏シーンも見事にこなしていましたが、どのような印象を抱きましたか?

三木:いつもすごいなと思うのは“プロ意識”の部分です。求められたものを瞬時に理解して、きっちりとこなしていく。演奏シーンをどのレベルで求められているのかを理解して、そこまで仕上げてくるんですよね。それは本当にすごいなと思いました。しかも覚え方が変わっていて。

ーーどういうことでしょう?

三木:彼は楽譜を読めないから、演奏指導の先生の指を見て振り付けのように覚えたそうなんです。ピアノを弾くあの早い指の動きを、目で見て覚えていると。そんな覚え方、普通の人からしたら信じられないですよね(笑)。だけど実際に弾いている姿を見ると、音もちゃんと合っていて、完璧なんです。知念くんはそうやって、撮影前から信じられないことをやってのけていました。それは中川(大志)くんも一緒で、今回、演奏シーンは吹き替えなしで全カット本人たちがやっているんです。ジャズの早弾きの演奏をこれだけのクオリティでやれる演者は、まずいないですから。知念くんと中川くんの2人ともがそのレベルに達していたので、本当に奇跡でした。

――中川さんも、これまでのイメージを覆すような素晴らしい演技を披露されていました。

三木:実は原作を読んだときに、ガタイがよくてハーフのような顔立ちで、しかもドラムができて……という必要な条件が多い千太郎を演じることができる役者は、まずいないだろうなと思ったんです。でも、キャストの組み合わせを考えたときに、知念くんと中川くんの身長差も面白いなと思ったし、見たことはなかったけれど中川くんは意外と短髪も似合う気がして。彼のプロフィール写真に短い茶色い髪の毛を落書きして、「あっ、これはイケるかも」と思ったところでオファーしました。原作ファンとアニメファンの方々にも、中川くんが演じる千太郎には納得してもらえるのではないでしょうか。

――キャスティングにも深く関わっていたんですね。

三木:キャスティングには初期の段階から関わらせてもらっていました。今回の肝は、薫と千太郎、不器用な2人が音楽を通して会話をする演奏シーンだと思っていたので、ただ上手いだけではなく、音楽のセッションシーンに気持ちを乗せることができる役者が必要でした。スキルはもちろん、その上で芝居もできる2人を探さないといけなかったので、キャスティングが一番のハードルだったかもしれません。

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