山崎賢人、『トドメの接吻』で“過去の呪縛”から解き放たれるのか? 役柄を超えた演技を読む

『トドメの接吻』は山崎賢人の集大成

 2月7日、運命の夜。宰子が暴漢をほうきで追い払う。運命は再び変えられた。警察の事情聴取で、長谷部(佐野勇斗)が座っていた席には旺太郎がいる。旺太郎の反撃開始。旺太郎には過去に正面切って挑もうとする強さがある。山崎賢人がこれまで演じてきたキャラクターとはここが明らかに違う。旺太郎はとにかく動き回る。尊氏が策を巡らせば、負けじと応酬する。何よりキス女がいる。彼女がいる限り、彼は何度でも過去に戻り、挽回することができるのだ。

 ところが、宰子との因縁を知ってしまった旺太郎は、彼女に横暴に振る舞うようになる。キス女は使いっ走りの奴隷同然の状態になってしまったかに見える。一方、旺太郎との間に本当の愛を見つけたという美尊は重役会議の場で尊氏とは結婚しないと高らかに宣言し、運命を変えようとする。そんな美尊に旺太郎はホストを辞めると言う。すると美尊が話し出すのは、旺太郎が長谷部の代わりに死んだという“夢”の話なのだ。彼女にとって、あの1週間はただの夢でしかなく、過去はもはや過去ではなくなる。ここで思い出さなければならない。旺太郎の瞳は常に見る者に“何か”を訴えかけてくるものなのだった。

 美尊の“夢小説”を聞かされた旺太郎は外へ飛び出す。宰子の元へひた走る旺太郎は、100億の女との未来を打ち捨て、キス女との過去へ再び向かおうとしている。しかし過去へ戻ることにはならない。旺太郎はキスをせずにそっと宰子を抱きしめるからだ。愛はなくてもキスをすれば「感触」はあると旺太郎は言っていた。今までのキスに愛はもちろんなかった。しかし抱き合う2人がお互いに感じている感触には、もしかすると愛があるかもしれない。2人は一度離れ、宰子が口ごもりながら「戻るんだよね?」と言う。見事な台詞の応酬とともに再び抱き合う。「戻るんでしょ?」宰子はもう一度聞く。「戻りたいのか? なら、今はいい……」。旺太郎、いや、ここには役柄を超えてしまった山崎賢人がいる。彼の瞳の輝きはあまりに美しく生々しい。2人は噛み締めるように、「今」を共有し、過去は忘れられている。“クズ男”は“本当の男”となり、「過去の人」から見事に返り咲いたのだ。

 しかしこの展開はあまりにも華麗すぎはしないか。そう思った矢先、抱き合う2人の元に美尊がやって来て、寄せ合っていた身体が引き離される。一転、旺太郎は気まずさをやり過ごすべくコミカルなハニカミを見せる。第7話はそのハニカミの口元のアップで締めくくられる。とは言え、この嘘のような展開によって「過去に何かを背負った男」という重々しい呪縛から山崎賢人がいよいよ解き放たれたような気がしてならなかった。

(文=加賀谷健)

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記

■放送情報
『トドメの接吻』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30〜放送
出演:山崎賢人、門脇麦、新田真剣佑、新木優子、佐野勇斗、宮沢氷魚、堀田茜、唐田えりか、山本亜依、志尊淳、菅田将暉
脚本:いずみ吉紘
音楽:Ken Arai
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:鈴木亜希乃、渡邉浩仁、岡宅真由美
演出:菅原伸太郎、明石広人
(c)日本テレビ
公式サイト:http://www.ntv.co.jp/todomenokiss/index.html

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる