チャン・ハンユーと福山雅治の“正義を信じる心” 『マンハント』はジョン・ウーの希望の結晶だ

『マンハント』はジョン・ウーの希望の結晶だ

 『君よ憤怒の河を渉れ』や、任侠映画などにおいて高倉健が演じていた役柄は、組織や権力のなかで自分を曲げずに「正義」や「仁義」を通す大衆的ヒーローである。それは経済優先、功利主義にひた走る日本社会への一種のアンチテーゼとしても機能し、それゆえに日本では学生運動に身を投じる若者たちの象徴的存在に祭り上げられていた。

 ウー監督の代表作の一つである『男たちの挽歌』で描かれたのは、香港社会の権力構造に押しつぶされ未来を閉ざされた男たちだった。彼らは香港の夜景を見つめて「この美しさも、うわべだけだ」とつぶやく。本作における、社会の犠牲となるホームレスや、大企業の力によって捜査を握りつぶされる刑事の無念が示すのも、発展した都市のきれいな遠景とは裏腹な、汚い社会の仕組みだ。

 若かりし時代のジョン・ウーの胸を熱くさせたのは、そのような仕組みや法律を超えた精神的な高潔さを描いた、日本の「任侠映画」的な価値観である。「任侠」ということばのルーツを辿ると、中国の春秋時代にまで行き着く。中国の文化を源流とする概念が日本映画のヒーロー像をかたちづくり、また中国(香港)の映画人が新しいヒーローを作る。そしてそれが『マンハント』というかたちで、また日本に凱旋して来たのである。その映画のなかでは、チャン・ハンユーと福山雅治が演じる男たちが、日本人だから、中国人だからという民族的なこだわりよりも、さらに普遍的な、真実を追い求める心、正義を信じる心によって連帯し共闘する。

 本作のラストでつぶやかれる「For A Better Tomorrow(より良い明日のために)」というセリフは印象的だ。“A Better Tomorrow”とは、『男たちの挽歌』の英語タイトルでもある。二つの国の俳優やスタッフたちによる交流、そして映画という文化による交流は、根深い対立感情が存在する両国が、理解し合えるという一つの実績であり、希望である。『マンハント』は、世界が「より良い明日」を迎えるために、ジョン・ウーだけの、ジョン・ウーならではの方法で撮られた希望の結晶なのだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『マンハント』
TOHOシネマズ 新宿ほかにて公開中
主演:チャン・ハンユー、福山雅治、チー・ウェイ、ハ・ジウォン
友情出演:國村隼
特別出演:竹中直人、倉田保昭、斎藤工
共演:アンジェルス・ウー、桜庭ななみ、池内博之、TAO、トクナガクニハル、矢島健一、田中圭、ジョーナカムラ、吉沢悠
監督:ジョン・ウー
撮影監督:石坂拓郎
美術監督:種田陽平
音楽:岩代太郎
アクション振付:園村健介
衣装デザイン:小川久美子
原作 西村寿行『君よ憤怒の河を渉れ』/徳間書店刊 および 株式会社KADOKAWAの同名映画
(c)2017 Media Asia Film Production Limited All Rights Reserved
公式サイト:http://gaga.ne.jp/manhunt/

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