韓国ではなぜ権力を映画で描くのか? 『ザ・メイヤー 特別市民』が映し出す、政治の世界の欲望

『ザ・メイヤー』が描く、政治の世界の中の欲望

 本作は、1作で観るのも楽しいが、できれば冒頭で挙げた『ザ・キング』や『タクシー運転手』と一緒に観ると、韓国ではなぜ権力を映画で描くのか、権力を持つ人が変わることで、右往左往してしまうのかの理解が深まると思う。

 これまでの韓国映画では、力を描くとき、その舞台は黒社会や会社組織であることも多かった。この映画の主演のチェ・ミンシクも2017年の公開時の韓国mydailyのインタビューで、「外国映画は政治を扱った優秀な作品が多いが、韓国にはあまりないでしょう」と語っている。しかし、黒社会よりも政治というものは、世間一般にとって身近で、危機感を持てばより関心が高まる話題でもある。今、こうした話題が韓国で映画の題材として選ばれるのも、今の観客の興味とリンクしているのだろう。

 政治を描いた3作の結末はまったく違うが、それぞれが、権力や政治というものが何なのかが描かれている。5.18光州事件を題材にした『タクシー運転手』では、過去の政権がやってきたことを描き、真実を伝えることの重要さが記されているし、検事の世界を描いた『ザ・キング』では、権力に溺れる人たちが政権交代に翻弄される姿が描かれている。その中でも、この『ザ・メイヤー』は、政治の世界が正義を信じる心だけではままならず、欲望とともにあることを示唆している。

 なお、韓国映画好きには、『新感染』で活躍し、主演映画『犯罪都市』が大ヒットを記録し日本でも公開されるマ・ドンソクや、『新しき世界』や『インサイダーズ/内部者たち』など、韓国の話題作で見ないことがないほど活躍のイ・ギョンヨンが出演しているのも見逃せない。

『ザ・メイヤー 特別市民』予告編

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■公開情報
『ザ・メイヤー 特別市民』
2月17日(土)より シネマート新宿、シネマート心斎橋にて公開
出演:チェ・ミンシク、クァク・ドウォン、シム・ウンギョン、ムン・ソリ、ラ・ミラン、リュ・ヘヨン
監督・脚本:パク・インジェ
撮影:キム・テソン
配給:クロックワークス
(c)2017 SHOWBOX AND PALETTE PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://klockworx-asia.com/themayor/

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