湯浅政明監督とスタジオの化学反応が生み出した奇跡 BD化を機に『マインド・ゲーム』の真価に迫る

『マインド・ゲーム』の真価に迫る

監督とスタジオの化学反応が生み出した奇跡

 とにかく全編を通してひしひしと感じるのは、表現手法の面白さである。それまでに、『ちびまる子ちゃん』や『クレヨンしんちゃん』シリーズなどで、スーパーアニメーターとして、エキセントリックな動きとトリッキーな構図を駆使し、観る者を幻惑させてきた湯浅政明だが、ここではそのパッションとセンスを爆発させ、狂気を感じる異常な領域に突入している。

 アニメーションのなかに実写を取り込んだ表現も見逃せない。本作では大阪の雰囲気を出すために、吉本興業の芸人が多く参加している。高畑勲監督によるTVアニメ『じゃりン子チエ』でも、西川のりおが声の出演をすることで味を出していたが、ここでは、西を演じる今田耕司をはじめ、藤井隆、山口智充、坂田利夫、島木譲二などが、声優として演技するだけでなく、顔の実写映像が加工され、本編のアニメーションに馴染ませるかたちで使用されている。湯浅監督はその後、TVシリーズ『四畳半神話大系』に代表されるように、実写とアニメを融合させる手法を、作家性として確立させていく。

 これら実験的な試みが花開いたのは、前衛的かつハイクォリティーな表現を得意とする、当時最も尖ったスタジオだったと言って良い「STUDIO4℃」で製作できたことが大きかった。監督がスタジオの力を引き出し、スタジオが監督の才能を引き出す。お互いが高め合う理想的な関係が、本作を奇跡的な内容的成功へと導いたのだ。そこに元ボアダムスで、様々なジャンルの音楽を実験的に追及するミュージシャン、山本精一も加わる。かつて高畑勲監督は、自身の監督作『アルプスの少女ハイジ』について、「天の時、地の利、人の和が揃った作品」と表現したが、『マインド・ゲーム』も、まさにそういう作品だといえる。

日本のアニメは「裏道」こそが「本道」

 さらには、『夜明け告げるルーのうた』でも見られた、過去の名作アニメのダンスシーンへのパロディも行われる。音楽と同期させたシーンに表現者としての足場を持つ湯浅監督だが、ここでは『ルーニー・テューンズ』でバッグス・バニーがバレエダンサーを装い、ふざけて踊りまくるという、おなじみの表現をダンスシーンに取り込んでいる。

 こういうところから要素を持ってくるという点から、湯浅監督が日本のアニメーションの常識にとらわれていないことが分かるのだ。湯浅監督は2014年にアメリカのカルトアニメ『アドベンチャー・タイム』の1エピソードを監督として手がけているが、日本のアニメ監督のなかでも、このような感覚にフィットできる人材は、ごく限られている。本作が海外で支持を得たのも、「日本のアニメ」のメインストリームとは本質的に異なる感性で作られている、“見たことのない”ものだったからだろう。

 本作は、日本のアニメーションの「本道」から外れることで、一般的には無視された過去のある作品である。しかし真の「本道」とは何なのだろうか。本作が、キャラクターの魅力に頼りきって、グッズが売れるような内容であったり、魅力を理解しやすいような、ありきたりの物語を決まりきった手法で表現する作品であったら、おそらく当時、国内でもっとヒットしていたのかもしれない。しかし、本作がそのような枠に収まらない「裏道」を走る作品だったかこそ、海外で高い評価を受け、国内でも再評価されるものになっているのである。つまり、『マインド・ゲーム 』が通った裏道こそが、自由な表現を楽しむという、アニメーションの本道に近いものだったのだ。

 本作の内容的達成というのは、常識にとらわれることを明確に拒否し、流れに逆らって新しいものを作るという勇気と信念を持たなければ、絶対に成し遂げられないはずだ。その姿勢は、“しょぼい人生”から脱出し、ありったけの創造力と根性と団結で激流を乗り越えていこうとする、本作のクライマックスと重なっている。だからこそ本作は、圧倒的な推進力を獲得しているのだ。未見の人たちも、すでに本作体験している人も、本作『マインド・ゲーム』を鑑賞することで、この自由へ突き進む圧倒的パワーを受け取ってほしい。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■リリース情報
『マインド・ゲーム』Blu-ray
2月9日(金)発売
価格:¥4,700+税
発売元:Beyond C.
販売元:TCエンタテインメント
キャスト:今田耕司、前田沙耶香、藤井隆、たくませいこ、山口智充、坂田利夫、島木譲二、中條健一、西凛太朗
監督・脚本:湯浅政明
原作:ロビン西
音楽:山本精一
総作画監督:末吉裕一郎
美術監督:ひしやまとおる
CGI監督:笹川恵介
プロデューサー:田中栄子
アニメーション制作:STUDIO4℃
(c)MIND GAME Project

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