西尾維新原作〈物語〉シリーズはなぜ抗いがたい感動がある? 評論家が『終物語』を語り尽くす

評論家が『終物語』を語り尽くす

 「すべてのキャラクターや伏線に対して、決着をつけに行く物語」


ーー確かに、音楽面でも間口を広げた作品ですよね。あと、個人的な主観ですが、好きなアニメとして公言してもあまり叩かれない印象です(笑)。

さやわか:オシャレで尖った、アート的な要素も感じられるからですかね? でも、よく見るとエロいアニメなんですけどね(笑)。ただまあ、先ほどから話しているように、西尾さんの小説自体がそういうものですからね。衒学的に思えたり、もってまわったような一癖ある文章で彩っているにも関わらず、漫画のようにキャラの楽しさと外連味あるテンポ感で展開させていく。そういう、背伸び感とエンタメ感の両立した感じって、まさに青春という感じで僕はいいなあと思うんですよ。しかも結局はそれが抗い難い面白さを生み出す。もちろん尖った要素だけに注目すればいくらでも難しく語れるので、そこにアニメ評論家やアニメライターは飛びつきやすいわけですが、最終的には「とにかく面白い」しか言わせない、圧倒的なエモーショナルさがあります。

ーー評論家であっても、「面白い!」の一言で終わらせたくなると。

さやわか:僕は本質的にそういう作品だと思っていますね。でも、もちろんアニメーションとしての面白さは存分にありますよ。たとえば、“シャフ度”(シャフト制作のアニメで多く見られる演出・キャラクターの首の角度の付け方)がどうして必要になるかだって、キャラクターへ極端に寄った画を急にインサートしつつ、振り向きや角度の変化という映像的な動きをつけてリズムを作っていると説明付けることはできる。先ほど話した、平面的である(=動かない)ことを意識しながらも、フィルムにテンポを付けるために施す手法ですよね。

ーーあのカットが入ることで、緩急が付く場面も多いですよね。

さやわか:会話途中の無意味なタイミングでシャフ度が入るのは、長台詞のなかで一拍置くタイミングであることがほとんどなので、それを裏付けているといえます。

ーー確かに。この作品は、2010年以降のアニメの速度感を決定づけたという印象です。

さやわか:アニメ制作の現場は、どんどん体力勝負かつ時間勝負になっているので、いかに“エコノミーにアニメを作るか”も必要ですよね。結果としてですが、新房さんの“アレンジメント的なアニメ”は、その解決法の一つになりました。CGを使ったシーンも、あえてCGっぽさをわかりやすく出すことで、その不自然さがかえってアーティスティックな、尖った表現に見えるように使っていますし。

ーー『終物語』についてもお聞きしたいのですが、特に印象深い回はありましたか。

さやわか:すべて面白いんですが、『終物語』に関してはやはり忍野扇とは何者なのかという最後の展開を挙げざるを得ないですね。なぜこのキャラクターが出てこなければならなかったのか、その伏線が一気に回収される場面は爽快でした。あと、過去のシリーズではミステリーであることは潜在的なことだったのに、このシリーズに関しては、序盤でこれがミステリーであることを宣言するのも、なんだか象徴的に思えて面白いポイントでした。

 『終物語』は、今まで登場したすべてのキャラクターや伏線に対して、決着をつけに行く物語です。その大団円をしっかりと成し遂げ、キャラクターを無下にしないところにも感動しました。

ーーここで一度お話は終わりましたが、原作はまだ精力的に出続けているのも、今後の展開的には気になりますね。

さやわか:一応、阿良々木くんを主人公とした青春ものとしては終わっていますけど、〈物語〉シリーズというか西尾維新作品の重要な点は、メインのストーリーがどうなろうと世界は存在するし、キャラクターは生き続けるということなんですよね。だからまずは『続・終物語』をやって欲しいですね。カーテンコール的にもいいですし、西尾維新作品のキャラクターの可愛さへの抗い難さを感じて、「いや、俺は別にそういうつもりではなかったんだけど……」と思いながら見たいです。『続・終物語』は全力でそう思わせてくれるお話なので(笑)。

(取材=泉夏音/構成=中村拓海)

■リリース情報
『終物語』全8巻、発売中
「第1巻/おうぎフォーミュラ」
「第2巻/そだちリドル」
「第3巻/そだちロスト」
「第4巻/しのぶメイル(上)」
「第5巻/しのぶメイル(下)」
「第6巻/まよいヘル」
「第7巻/ひたぎランデブー」
「第8巻/おうぎダーク」

【完全生産限定版】
・キャラクターデザイン:渡辺明夫描き下ろしデジパック仕様
・本編DISC+特典CD
・三方背クリアケース
・特製ブックレット
・特製ピンナップ
・特典映像
原作者:西尾維新描き下ろしキャラクターコメンタリー
原作:西尾維新 『終物語』(講談社BOX)
キャラクター原案:VOFAN
総監督:新房昭之
監督:板村智幸
シリーズ構成:東富耶子、新房昭之
キャラクターデザイン・総作画監督:渡辺明夫
総作画監督:岩崎たいすけ、西澤真也
美術監督:内藤健
色彩設計:日比野仁、渡辺康子
撮影監督:江上怜
編集:松原理恵
音響監督:鶴岡陽太
音楽:羽岡佳
アニメーション制作:シャフト
キャスト:神谷浩史、水橋かおり、井上麻里奈、斎藤千和、堀江由衣、沢城みゆき、花澤香菜、坂本真綾、早見沙織、ゆきのさつき
(c)西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト
公式サイト:http://www.monogatari-series.com/owarimonogatari/

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