ジェシカ・チャステインの装いが意味するものーー『ユダヤ人を救った動物園』が描く勇気と正しさ

『ユダヤ人を救った動物園』の勇気と正しさ

 本作はダイアン・アッカーマンによる同タイトルのノンフィクション(亜紀書房、青木玲訳)を基に製作されている。動物園の園長のヤンとアントニーナのジャビンスキ夫妻は、強制隔離されていたゲットーからユダヤ人を助け出し、『シンドラーのリスト』のオスカー・シンドラーや日本人外交官の杉原千畝のように、延べ300人の人々の命を救った。比較できることではないが、当時のポーランドの状況や社会的な地位を鑑みると、ジャビンスキ夫妻のほうがより命の危険が迫っていたかもしれない。

 実際のアントニーナも映画同様におしゃれ好きでスカートを好み、動物を愛する穏やかな性格の主婦だったそうだが、そんなごく普通の主婦が、当時ユダヤ人にグラス1杯の水を差し出しただけでも殺されたポーランドで、ユダヤ人を、それも多大な人数を助けたのだ。はじめにこの計画を思いついたのは夫のヤンだったかもしれないが、アントニーナは一切異議を唱えることなく夫と同様に危険を冒し、常に恐怖に怯えながらもひとりで館に滞在したユダヤ人たちを全力で守った。その史実の重さに打ちのめされるのと同時に、ジャビンスキ夫妻の行動は賞賛の言葉をかけることすら畏れ多いほど、彼らの勇気と正しさにただただ敬服する。

 幸運にもヤンの手を掴めたおよそ300人の人々のうち、実際に動物園を出てからゲシュタポに捕まり、殺されてしまったのは劇中ではっきり描かれる2人の女性だけではなかったが、園長夫妻が助けたほとんどの人々が終戦を迎えることができたという。映画では描ききれなかった部分もわかる原作本を併せて読まれることをおすすめしたい。アントニーナの暮らしぶりがより細かく書かれ、またジャビンスキ夫妻だけでなくたくさんのポーランド人が、体制に迎合することなく、友人や隣人のみならず見ず知らずのユダヤ人をひとりでも多く救うために、死を覚悟で行動していたことも綴られている。

■古閑万希子
ライター。映画評や映画ノベライズを手掛ける。

■公開情報
『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』
TOHOシネマズ みゆき座ほかにて公開中
原作:『ユダヤ人を救った動物園 ヤンとアントニーナの物語』(亜紀書房)
脚本:アンジェラ・ワークマ
監督:ニキ・カーロ
出演:ジェシカ・チャステイン、ダニエル・ブリュール、ヨハン・ヘルデンベルグ、マイケル・マケルハットン
原題:The Zookeeper’s Wife
後援:ポーランド広報文化センター
後援:ポーランド広報文化センター
公益社団法人日本動物園水族館協会
協力:赤十字国際委員会(ICRC)
配給:ファントム・フィルム
(c)2017 ZOOKEEPER’S WIFE LP. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://zookeepers-wife.jp/

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