商業映画が太刀打ちできない作品も 「MOOSIC LAB」と「PFFアワード」に見る、日本映画の多様性

ムーラボとPFFに見る、日本映画の多様性

 長編部門で三賞を受賞した岩切、首藤、吉川の3人は、いずれも昨年開催された「PFFアワード2016」の入選監督で、岩切は『花に嵐』で準グランプリ、首藤は『また一緒に寝ようね』で審査員特別賞受賞を果たしていた。監督として本格的な活動をおこなう手前の、自主映画を作る学生たちや駆け出しの監督たちにとって、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)は長きに渡って登竜門の役割を担いつづけている。「PFFアワード2017」の主な結果はこちら。

「PFFアワード2017」

グランプリ

『わたしたちの家』(清原惟監督)

準グランプリ

『子どものおもちゃ』(松浦真一監督)

審査員特別賞

『同じ月は見えない』(杉本大地監督)
『狐のバラッド』(藤田千秋監督)
『沈没家族』(加納土監督)

観客賞

『あみこ』(山中瑶子監督)

 惜しくも選に漏れたものも含めて、印象深かったのは次の作品だ。

 まずグランプリを受賞した清原惟監督の『わたしたちの家』は、今回「PFFアワード」に入選した作品のなかで、クオリティにおいて頭ひとつ抜きん出ていた。ある1軒の家を舞台に、14歳の少女と母、記憶を失った女と彼女が身を寄せる女、2組の女性たちの物語が同時並行して綴られるのだが、それらはかすかに触れ合い、それぞれの気配を残しながら、決してひとつのストーリーには収斂されない。いくつかの謎を提示し、女性たちの不安や緊張を画面に浸透させつつ、ふたつの時間のうちに観る人を漂わせていく。優れているのは、清原の感性が純度と鮮度を失わないまま、この作品に息づいているように感じられるところ、確かな技術に裏打ちされた、一見思索的な作品でありながら、表現が感覚的で伸びやかなところだ。

 藤田千秋監督による審査員特別賞受賞作『狐のバラッド』も、藤田の感性が怖れ知らずな奔放さでぶちまけられた、でたらめすれすれの自由な作品だった。みずから演じる大学生の主人公が卒業制作の題材を探し求めるこの物語は、分不相応な成り上がりを夢見る旧友とか、なぜかセーラー服姿のおっさんとか、おかしくも愛すべき人たちとのやりとりを交えながら、ふいに将来への不安に揺れる若者の姿を浮き彫りにする。

 加納土監督の審査員特別賞受賞作『沈没家族』は、共同の保育者たちによって子育てをおこなう試み「沈没家族」の実態を、かつてそのようにして育てられた加納自身が探求するセルフドキュメンタリー。とにもかくにも「沈没家族」という実験の革新性に惹きつけられるが、当事者でありながら適度な客観性を保つ加納の視線が、そこに関わった人たちの人間的魅力を伝えてあたたかい。

 これを描きたくてどうしようもなかった、とでも言うような作り手のやむにやまれぬ衝動を感じさせるのは、ジェムストーン賞(日活賞)などを受賞した武井佑吏監督の『赤色彗星倶楽部』だ。十数年に一度という赤色彗星の到来を迎え、彗星同士は引きつけ合うという性質を見つけた男子高校生は、天文学部の仲間たちとともに彗星核を作ろうとする。でもある悲しい出来事によって、彼らの計画は頓挫してしまい……。ここにあるのは、ひとたび過ぎ去ってしまえば二度と返ることのない青春の儚さであり、それゆえに激しい光を放つ青春の眩さだろう。

 顕微鏡をのぞけば、フウセンカズラは風船になり、人々は冒険の旅に誘われる。そんな想像力の発露を、中尾広道監督による27分の短編『風船』では目の当たりにする。日常の淡々とした描写に、水彩で描かれた風船やタヌキの絵が溶け合う、映画と絵本が融合したような世界。商業映画ではめったにお目にかかれない無二の作風は、アート系と呼ぶにはあまりに愛らしい、ゆるアート系の趣だ。

 多様な作品が存在する映画の生態系は、こうやってインディペンデント映画や自主映画の領域において維持されている。いや、考えてみれば、雑多な個性から生まれる作品が、ある特定のテーマやスタイルに縛られ、ある特定の感情を伝えるためだけに作られるとしたら、そもそもそこに無理と不自由があるのだろう。映画が多様でなければいけないのは、豊かな映画文化を継承していくためではなく、それが人間によって生み出される映画のありのままの姿だから。

 ムーラボ、PFFアワード、それぞれの受賞作のなかから、『聖なるもの』『なっちゃんはまだ新宿』『少女邂逅』『わたしたちの家』の劇場公開が早くも決定している。

■門間雄介
編集者/ライター。「BRUTUS」「CREA」「DIME」「ELLE」「Harper’s BAZAAR」「POPEYE」などに執筆。
編集・構成を行った「伊坂幸太郎×山下敦弘 実験4号」「星野源 雑談集1」「二階堂ふみ アダルト 上」が発売中。Twitter

■公開情報
『わたしたちの家』
2018年1月13日(土)より、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
出演:河西和香、安野由記子、大沢まりを、藤原芽生、菊沢将憲、古屋利雄、吉田明花音、北村海歩、平川玲奈、大石貴也、小田篤律子、伏見陵、タカラマハヤ
監督:清原惟
脚本:清原惟、加藤法子
配給:HEADZ
2017年/80分/アメリカンビスタ/5.1chカラー/DCP
(c)東京藝術大学大学院映像研究科
公式サイト:http://faderbyheadz.com/ourhouse.html

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