アカデミー賞に大きな影響も? アワードシーズン、賞レース前半戦の行方

ハリウッド賞レース前半戦の行方

 これら三つの映画祭はロケーション、規模、スタイルなどそれぞれ違うものの、過去の上映作品とアカデミー賞受賞作品、およびノミネート作品の関係を眺めてみると、毎年のアワードシーズン前半戦におけるこれらの映画祭の重要性が見えてくる。例として過去5年間の作品を見てみると、2012年には第85回アカデミー作品賞受賞作『アルゴ』を始め、第87回と第89回の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』及び『スポットライト 世紀のスクープ』、それらの強力なライバルだった『ルーム』、『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』など、アカデミー賞を賑わせた多くのタイトルが、特に北米の二つの映画祭において上映された。

 昨年2016年の映画祭にいたっては、作品賞受賞作『ムーンライト』と同賞ノミネート作品の『マンチェスター・バイ・ザ・シー』『メッセージ』、そしてアカデミー賞最多7部門受賞の『ラ・ラ・ランド』の4タイトルがテルライドに出品された。『ラ・ラ・ランド』はヴェネツィアのオープニング作品としても大きな話題をさらい、トロントでは観客賞も受賞した。また近年のアカデミー外国語映画賞を受賞した『偽りなき者』、『グレート・ビューティー/追憶のローマ』『イーダ』などの英語圏以外の作品も、これらの映画祭で上映された。

 今年も9月17日をもってトロント国際映画祭が終わり(筆者はあいにく現地に行くことはかなわなかったが)、この三つの映画祭が全て幕を閉じたが、過去の結果をみると、先日上映された作品の中にも来年の3月にはアカデミー作品賞受賞作品として歴史に名を刻むタイトルがあったのではないかと、思わず期待せずにはいられない。

 The Hollywood Reporterに掲載された三つの映画祭についてまとめた記事「ベスト・オブ・ザ・フォール・フェスティバル(Best of the Fall Festivals: THR Critics' Picks From Toronto, Telluride and Venice)」で挙げられている作品の一つに、ギレルモ・デル・トロ監督による『シェイプ・オブ・ウォーター』がある。この作品はヴェネツィア国際映画祭でのワールドプレミア後、すぐに高い批評が各業界紙から出されたが、立て続けにテルライド、そしてトロントで上映、そしてヴェネツィアの最高賞である金獅子賞を受賞した。アメリカでは12月8日に、これまで『バードマン』『ブラック・スワン』などを製作・配給したアカデミー賞作品賞の常連、Fox Searchlight社の配給で公開予定だが、「『パンズ・ラビリンス』以来のデル・トロ監督の最高傑作」(The Hollywood Reporter)とも言われるこのファンタジーのアカデミー作品賞のノミネートは固いと見られる。

 また『20センチュリー・ウーマン』『フランシス・ハ』などへの出演で知られるグレタ・ガーウィグ初監督作品となる、『Lady Bird(原題)』もテルライドで注目を集めた。厳格な親の元を離れるため、北カリフォルニアのサクラメントから出ようともがく10代の若い女の子の冒険を描いたこのヒューマンドラマは、トロントでも上映されており、IndieWire上では『シェイプ・オブ・ウォーター』と並んで「映画祭最高の作品(Best of the Fest)」の一つに挙げられている。

 またトロント映画祭の最高賞である観客賞は、『ヒットマンズ・レクイエム』で知られるマーティン・マクドナー監督の長編3作目『スリー・ビルボード・アウトサイド・エビング、ミズーリ(原題)』が受賞した。これは娘を殺人で失った母親が、いつまでたっても事件の解決の見通しがない警察を相手に一人闘う姿を描いたダークコメディで、前出のFox Searchlight社より11月に全米で公開される予定だが、ヴェネツィアでも脚本賞を受賞するなど、こちらもオスカーでの活躍に期待が高まる。

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