SNSで人気のドラマは本当に“良作”なのか? 大根仁監督『ハロー張りネズミ』の真価

SNS重視のドラマ作りの弊害

 SNSでの話題作りというと、多くの人々は、過激なシーンを露悪的に見せることで注目を集めようとする炎上商法的なものを想像するだろう。大ヒットした『家政婦のミタ』(日本テレビ系)や『半沢直樹』(TBS系)の盛り上がり方がそれだった。しかし、今は炎上商法的な作品は、視聴者に拒絶されてしまい、逆に見ている人が誰も傷つかない世界を展開する“優しいドラマ”が流行っている。

 厳しい世相もあって、辛い現実を見せつける作品よりも、辛い現実を遮断するためのシェルターのような作品こそが求められているのだ。極端に露悪的な作品も極端に優しい作品も視聴者の反応を伺っているようなところがあって、好きになれない。商業的な戦略としては作り手が意識するのは仕方がないことだとは思う。だが、作家性の強い映像作品を見たい立場からすると、居心地が悪い。

 『ハロー張りネズミ』が心に残ったのは、視聴者の短絡的な欲望に対して、大根が一定の距離をとって、自分が見せたい作り込んだドラマを見せてくれたからだ。こういう作品は過去の大根のドラマと同様、後世にちゃんと残り、届くべきところに最後には届く。SNSでウケることがテレビドラマの勝利条件となっているが、そこから距離をとることでしか生まれない濃密な表現というものもあるのだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
金曜ドラマ『ハロー張りネズミ』
TBS系にて毎週金曜よる10:00~10:54放送
原作:弘兼憲史「ハロー張りネズミ」(講談社「ヤングマガジンKC」所載)
脚本・演出:大根仁
プロデュース:韓哲、市山竜次
出演:瑛太、深田恭子、森田剛、中岡創一(ロッチ)、片山萌美、蒼井優、リリー・フランキー、山口智子
製作:オフィスクレッシェンド、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/hello-harinezumi/

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