『黒革の手帖』は“母子手帳”じゃない! 女優・武井咲がつかんだ、芸能界での“10年パスポート”だ

 今回の『黒革の手帖』では、放送中にまさかの結婚・妊娠発表!というサプライズがあって、世間を騒がせているが、私生活ではなく、彼女の熱演こそを見てほしい。例えば、劇中で元子のライバル・波子を演じる仲里依紗が既婚子持ちだということは、ほとんどの人が意識していないのではないか。滝藤賢一だって本当は子煩悩なパパなのに、あんなに嫌な役を演じても、それに違和感があるという人はいない。武井咲は撮影中、自分も妊娠しているのに、階段から転げ落ちて流産してしまうという場面を演じ、次の10月クール『今からあなたを脅迫します』(日本テレビ系)も予定どおり出演するという。無理はしてほしくはないが、その決断は事務所がうんぬんというより、本人のプロ意識が強いからにほかならないだろう。

 武井咲は、9月13日放送の情報番組『PON!』で、新ドラマのスタッフ&キャストに結婚を祝福され、「(結婚という)これを機にいろんな経験を積み重ねて、女優として2つも3つもステップアップできるように頑張りたいと思いますので、よろしくお願いします」と語っていた。これはまさに、出産後も女優は続けます宣言。筆者は、よくドラマの撮影現場で取材をするが、連続ドラマの主演を張るというのは体力的にも精神的にもかなりハードな仕事だ。そのポジションに立ち続けるのは、事務所の力だけではとうてい不可能で、本人の努力でつかみとった大事なキャリアの到達点なのである。

 『黒革の手帖』は母子手帳ではない。女優・武井咲がキャリア9年目で役者として評価された作品であり、TVドラマ業界での“10年パスポート”だ。産休・育休は充分に取りつつ、復帰したらまた悪女役にも挑戦してほしい。ここ数年、榮倉奈々、杏、そして武井と20代の主演女優の出産が続いているが、みんなでワーキングシェアのようにして交代で産休・育休が取れたらいい。そんな発想はお花畑すぎるかもしれないが、2017年の今、女性の生き方のモデルとしても注目される動きである。イメージがどうの、CMの違約金がどうのなどと報じている旧体質のメディアは、女性を縛る古い価値観を振りかざして騒げば騒ぐほど、時代と読者から取り残されていくということをお忘れなく。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
『黒革の手帖』
テレビ朝日系にて、毎週木曜21:00~放送
出演:武井咲、江口洋介、仲里依紗、滝藤賢一、和田正人、内藤理沙、高嶋政伸、真矢ミキ、高畑淳子、奥田瑛二、伊東四朗ほか
原作:松本清張『黒革の手帖』(新潮文庫刊)
脚本:羽原大介
監督:本橋圭太、片山修
ゼネラルプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
制作協力:アズバーズ
制作著作:テレビ朝日
公式サイト:http://www.tv-asahi.co.jp/kurokawanotecho/

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