『ダンケルク』初登場1位に 日本におけるノーラン作品の本当の実力を検証

ノーラン作品の本当の実力は?

 クリストファー・ノーラン監督『ダンケルク』、是枝裕和監督『三度目の殺人』、黒沢清『散歩する侵略者』。いずれも映画ファンにとってはその名前だけで特別な吸引力を持つ監督の新作の公開が重なった先週末。結果は『ダンケルク』(444スクリーン)と『三度目の殺人』(314スクリーン)がトップ2、『散歩する侵略者』(181スクリーン)はぎりぎりトップ10入りと、スクリーン数の違いを勘案しても明暗が分かれた。初登場1位の『ダンケルク』は、土日2日間で動員22万人、興収3億2400万円という成績。この数字を「成功」とするか「順当」とするか(少なくとも「失敗」ではないだろう)については、過去のクリストファー・ノーラン監督作品との比較が必要だろう。

 ヒットメイカーとしてのクリストファー・ノーランの歩みは、世界的には2002年に公開された監督3作目の『インソムニア』(世界興収で初めて1億ドル突破)から始まるが、日本ではその次の『バットマン ビギンズ』(2005年)から始まる。同作の日本での最終興収は約14億円。そして、海外でも日本でも『インソムニア』と同程度の結果に終わった『プレステージ』(2006年)を挟んで、2008年の『ダークナイト』において海外と日本との間で決定的なギャップが生まれることになる。『ダークナイト』は世界高興収10億ドル超えという歴史的ヒット作となり、世界興収3億7000万ドルの前作『バットマン ビギンズ』から約3倍という、フランチャイズ作品としては21世紀に前例のない驚異的な伸びを記録した。ところが、日本での『ダークナイト』の最終興収は『バットマン ビギンズ』から2億円微増しただけの16億円。ワーナー本国の重役が日本支社に乗り込んで「一体どうなってるんだ?」と怒鳴り散らしてもおかしくない(実際にそんなことがあったかどうかはわかりませんが)物足りないにもほどがある数字だ。

 ところが、次の『インセプション』(2010年)で日本での状況も一変する。エンターテインメント作品としては決してわかりやすい作品ではなかったにもかかわず、『ダークナイト』の余勢もかって、同作は世界興収8億2500万ドルと連続してメガヒット。とはいえ、さすがに海外では『ダークナイト』に及ばなかったわけだが、日本では『ダークナイト』から倍増以上の最終興収35億円という大ヒットに。これは、主演のレオナルド・ディカプリオの日本でのブランド力が当時はまだかなり強かったことと、そのディカプリオと渡辺謙が同じスクリーンで活躍しているという「売り」が効いたことも大きかったわけだが、近年ほぼ絶滅しつつある「日本で客が呼べる海外の名監督」としてノーランが認知されつつあることも示していた。

 もっとも、その次の『ダークナイト ライジング』(2012年)は最終興収19億7000万円、そして『ダンケルク』の前作にあたる『インターステラー』(2014年)は12億6500万円と伸び悩む(『インターステラー』の興行成績は海外でも近年のノーラン作品の中では相対的に低かったが)。

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