なぜ真の女性ヒーロー映画が登場するまで40年かかったのか? 『ワンダーウーマン』の画期性

真の女性ヒーロー映画登場に40年かかった理由

 ともあれ、『チャーリーズ・エンジェル』の次は『ワンダーウーマン』だ!ということにはならず、それから15年が経った。そして、ドラマ『スーパーガール』『ジェシカ・ジョーンズ』の一定の成功をステップにして、ついに2017年、この映画がやってきた。

 『ワンダーウーマン』という映画の画期性は「戦う動機」という問題を、これ以上ないくらい絶妙なバランスで、正面からクリアしている点だ。

 そもそも、主人公ダイアナは人間ではなくゼウスの子であり、自分が生まれた使命=戦争の神であるアレスという悪を倒す、というまっすぐな正義のために戦う。ちょっと純粋で天然すぎるが、「戦う動機」は人から与えられなくても自らのうちにもともと持っており、後から獲得する必要がない。

 神を主人公にする、という力業を成り立たせている上で重要なのが、「第一次世界大戦」という舞台設定だ。第一次世界大戦は、人類史上初めての世界大戦であり、はじめて大量殺りく兵器が投入された戦争であり、2000万人の死者を出した、それまでの人間の想像を超えた悲惨な事態が人類史上初めて地上に現出した戦争だった。人間には、人間が想像できる範囲を超えた「悪」をなす力がある、ということを人間自身に突きつけた戦争だった。逆に言えば、「悪」の親玉を倒せば正義を実現できる、というダイアナが信じていた素朴な正義がぎりぎり説得力あるように描いて不自然にならない、最後の時代でもある。素朴でまっすぐな正義をもって戦い、その正義が通用しない現実に直面し打ちひしがれるが、それでも戦うための自分だけの動機にたどりつく、というストーリーが成立する絶妙な舞台設定なのだ。

 その絶妙な舞台設定の力が最大限発揮されるのが、誰もが映画の白眉にあげる、映画史上に残る「ノーマンズランド」のシーンだ。多数の犠牲者を出しながら1年以上進展のない最前線の戦場に、ダイアナはただ一人、盾と剣だけの無防備な姿で飛び出していく。そして、敵の集中砲火を浴びながら死地を突破し、後続の兵士を勇気づけ、一つの村を解放する。

 『ワンダーウーマン』の画期性は、極論すれば、「ノーマンズランド」のあの絵面を最高に格好良い、感動的な場面として描くことに成功した、という点に集約されると言っていいと思う。

 もう一点、この映画を特別にしているのは、クリス・パイン演じるスティーブ・トレバーとダイアナの関係性だ。クリス・パインは、昨年のオスカーノミネート作『最後の追跡』でも「常識の通じないムショ帰りの兄に振り回されつつ共に銀行強盗を働く弟」を好演していたが、今作での役回りもそれとよく似ている。常識の通じないダイアナに振り回されつつ、その健全かつ誠実なリアクションでダイアナの魅力を引き出している。観客が感じ取るダイアナの魅力のかなりの部分はクリス・パインによって引き出されたものだと思う。

 2人のケミストリーが抜群だからこそ、2人が恋に落ちる展開にもすんなり納得がいく。そして、スティーブはダイアナから忘れかけていたまっすぐな正義感を、ダイアナはスティーブから汚れた世界を目の当たりにしても理想を捨てないしぶとさと人間らしさを学ぶ。どちらかが上ということがない2人の関係性が、神としての使命に基づく戦いから、対等な人間同志の絆に基づく戦いへ、という物語の流れに説得力をもたらしている。

 『ワンダーウーマン』の大成功を受けて、さあいよいよ女性ヒーローものの時代だ!となるかといえば、恐らくことはそう簡単には運ばないんじゃないかと思う。

 『ワンダーウーマン』は、往年のハリウッド大作のような大らかな映画のようでいて、舞台設定といいキャスティングといい、実はなかなか真似できない絶妙なバランスで成り立っている。清潔な魅力あふれる主人公に同時に戦う理由も与える、という難しいミッションをこれ以上なく見事にクリアしているのだ。これはそう簡単に真似できない。『ワンダーウーマン』自身の続編にしても、すでにダイアナ自身のイノセンスが失われた地点を物語のスタートにして、より現代に近い時代を舞台に、クリス・パインのスティーブ・トレバーもいない『ワンダーウーマン』とか、正直なところ、現時点ではなかなか想像できない。女性ヒーローにとっての「戦う動機」という問題は、この1作でずばり解決したわけではなく、これからも一歩一歩、それぞれ別のやり方でチャレンジは続いていくんだろうと思う。

 1978年版『スーパーマン』も、2002年版『スパイダーマン』も、そのすぐ後にヒーロー映画ブームがすぐ続いたわけじゃない。両作品とも簡単に真似できない奇跡的な映画だったからだ。『ワンダーウーマン』はそれに並ぶ特別な映画だ。

■小杉俊介
小杉・吉田法律事務所所属の弁護士/ライター。
音楽雑誌の編集、出版営業を経て弁護士に。

■公開情報
『ワンダーウーマン』
全国公開中
監督:パティ・ジェンキンス
出演:ガル・ガドット、クリス・パイン
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/wonderwoman/

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