単なる“リメイク”に終わらない! 独自の“強度”を持った『連続ドラマW コールドケース ~真実の扉~』の魅力

『コールドケース ~真実の扉~』の魅力

日本の現代史のなかに置き換えること

(c)WOWOW/Warner Bros. International Television Production

 今回の日本版の制作について、波多野貴文監督は、WOWOWの『連続ドラマW コールドケース ~真実の扉~』公式サイトにて、次のようにコメントしている。「戦後、震災、バブル……日本の激動の時代を生きた人々の感情を大切にし、その時代だからこそ起きた悲しき事件を、現代の時間軸を生きる主人公たちを通して描いていきます」。そう、問題なのは事件そのものではなく、それが起きた時代背景を綿密に設定することによって浮かび上がる、当時の人々の姿なのだ。

 全10話中5本の脚本を手掛けている瀬々敬久は、さらに踏み込みながら、次のようなコメントを発表している。「脚本化に当たっては、原案ドラマの“人は忘れられない何かを持っている”というテーマを大切にしたいと思いました。さらには誰も見向きもしなかった男女や親子の犯罪に関わる物語だったとしても、それは少なからず時代の空気と関係があったという視点です。原案の各事件を日本の現代史のどこに当てるかに腐心し、戦後の光と闇、高度経済成長期の悲劇、移民問題、震災、格差社会、そういった主題をドラマと結びつけました」。(WOWOW『連続ドラマW コールドケース ~真実の扉~』公式サイトより)

 本作のメイン脚本家として、瀬々敬久が起用されている理由は、恐らくそこにあるのだろう。映画監督として長らく活躍する瀬々敬久の近作『64-ロクヨン-』は、まさしく昭和64年に起きた“未解決事件”を扱った映画であった。さらに言うならば、2010年に彼が監督した278分の大作映画『ヘヴンズ ストーリー』は、殺人事件に直面した人たちの人生の絡み合いを描いた映画であり……彼がライフワークとして扱っているテーマ「犯罪と人間、そして時代性」が、本家『コールドケース』が持つテーマと深い部分でシンクロしているのだ。そう、日本版『コールドケース』は、単なる“リメイク”ではなく、オリジナルのプロットを活かしながらも、それによって戦後から近現代に至る日本の社会状況及び、そのなかで生きてきた人々の姿を描こうとする、実に野心的な“リメイク”作品なのである。

物語のクライマックスは、手に汗握る心理戦

(c)WOWOW/Warner Bros. International Television Production

 日本版『コールドケース』の見どころは、それだけではない。本作のシリーズものとしての面白さは、本家同様、捜査班の面々の過去の事件やトラウマ、あるいは家族関係、深い孤独などが、徐々に浮き彫りになってくる点にある。

 「なぜ今さら事件を蒸し返すのか?」。そう問われた主人公=石川百合は、こう答える。「忘れちゃいけないから。誰かの都合で真実に蓋をしちゃいけないの」。副題となっている「真実の扉」とは、恐らくこのやりとりからきているのだろう。けれども、“真実の扉”を開けることは、多くのリスクがつきまとう。真実というものは、現在の平穏に少なからず波風を立てるものだから。それでも真相の解明に執着する捜査班。しかし、扉を開けようとする彼らの過去や真実もまた、次第に問われることになっていくのだった。

(c)WOWOW/Warner Bros. International Television Production

 オリジナル版のシーズン2のクライマックスを踏襲した本作の最終回。全10話の中で最も猟奇的な事件であり、唯一逮捕することができなかった犯人が、最終回で再び捜査一課の人々の前に登場する。彼の標的は、主人公=石川百合だ。彼は、正義の名のもと“真実の扉”をこじ開けようとする彼女たちを執拗に追い詰める。そのやりとりは、『羊たちの沈黙』以降とも言える心理サスペンス、あるいは『ダークナイト』のような善悪の彼岸をめぐる対決を彷彿とさせる。過去を暴く者は、自らの過去も暴かれる。過去を消すことなど、誰にもできないのだ。では、消すことのできない過去と、我々はどう折り合いをつけながら、現在を生きればいいのだろうか? そんな普遍的なテーマを、このドラマは観る者の心に次第に突きつけていくのだ。

 オリジナルを“換骨奪胎”することによって、その可能性をさらに押し広げ、そこに新たな“意味”や“意義”をもたらせること。地上波の連続ドラマのみならず、BS/CSのオリジナルドラマ、あるいは配信ドラマの登場など、ドラマというフォーマットそのものが、根底から変わろうとしている今、このドラマを観ることは、海外と日本の違い、あるいは日本の役者及びスタッフの現在の“実力”を測る意味でも、大いに価値のあることであるように思えた。ちなみに、『コールドケース ~真実の扉~』は、視聴者からの好評を受けて、シーズン2の制作が決定したことを発表した。主演の吉田羊をはじめ、捜査班の面々の続投も決定。2018年の放送を目指して、この12月から撮影に入るという。シーズン1で断片的に明かされた登場人物たちの過去は、今後、物語にどんな影響をもたらせていくのだろうか。それも含めて大いに期待したい。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。

■リリース情報
『連続ドラマW コールドケース ~真実の扉~』
9月6日(水)ブルーレイ&DVDリリース/デジタル配信/DVDレンタル同時開始

『連続ドラマW コールドケース ~真実の扉~』ブルーレイ コンプリート・ボックス(2枚組)

『連続ドラマW コールドケース ~真実の扉~』
ブルーレイ コンプリート・ボックス(2枚組)
希望小売価格:24,000 円+税
製作年度:2016年
ディスク枚数:2枚

『連続ドラマW コールドケース ~真実の扉~』
DVD コンプリート・ボックス(5枚組)
希望小売価格:19,000円+税
製作年度:2016年
ディスク枚数:5枚

出演:吉田羊、永山絢斗、滝藤賢一、光石研/三浦友和
監督:波多野貴文
脚本:瀬々敬久、吉田康弘、蓬莱竜太、林宏司
音楽:村松崇継
オリジナル脚本:クリス・マンディ、メレディス・スティーム
プロデューサー:岡野真紀子、近見哲平、リチャード・バーレル
(c)WOWOW/Warner Bros. International Television Production
公式サイト:https://warnerbros.co.jp/tv/coldcase/

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