主婦が麻薬売買に手を染めた理由ーー『ローサは密告された』が描く、スラム街の現実

『ローサは密告された』が描く現実

 ローサを密告した若者がスラム街の住人により、ローサの息子に知らされる。金策のために家財をスラム街で売り歩いている途中に、その若者を発見した息子はその若者に対し暴力による報復を加える。身近な人間の若者同士でさえ、密告された側の人間による報復というものが起きるのが必然の環境だ。そのシーンを観るだけで、ローサが密告をしたことによって逮捕を免れたとしても、その後の報復が恐ろしいものであることは容易に想像がつく。ましてや相手は、麻薬の卸売をしている者で、闇の社会と大きく関わっていることは確実なのだから。釈放されたとしても、警察に支払うために抱えた莫大な借金返済と、密告した相手からの報復により、自分や家族が身の危険に晒されるといった問題に直面せざるを得ない。

 国家権力と闇の社会。どちらに転んでも究極の選択をしなければ生きられない。そんな状況を、他人ごとだと高を括ってはいけない。貧困から抜け出すことのできない負のスパイラルは、世界中ではびこっている。犠牲になるのはいつも弱い者たちばかりだ。それが例え警察のような国家機関の中でも、スラム街でも構造は変わらない。その原因とはいったい……。そんなことを自問させられる映画である。

 主演ローサ役の女優ジャクリン・ホセは、第69回カンヌ国際映画祭で主演女優賞を獲得している。ほかの出演者たちのリアリティある演技も素晴らしく、本当のスラム街の街並みやカメラワークも相まって、まるでドキュメンタリー映画を観ているような気分になる。

 テーマ、カメラワーク、出演陣の全てが相乗効果を生み出し、深い問題提起をする『ローサは密告された』は、現代社会に生きる人間たちが、目を逸らすことのできない映画である。

■ISHIYA
アンダーグラウンドシーンやカウンターカルチャーに精通し、バンド活動歴30年の経験を活かした執筆を寄稿。1987年よりBANDのツアーで日本国内を廻り続け、2004年以降はツアーの拠点を海外に移行し、アメリカ、オーストラリアツアーを行っている。今後は東南アジア、ヨーロッパでもツアー予定。音楽の他に映画、不動産も手がけるフリーライター。
FORWARD VOCALIST ex.DEATH SIDE VOCALIST

■公開情報
『ローサは密告された』
7月29日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
監督:ブリランテ・メンドーサ
出演:ジャクリン・ホセ、フリオ・ディアス
配給:ビターズ・エンド
2016/フィリピン/110分
(c)Sari-Sari Store 2016
公式サイト:www.bitters.co.jp/rosa

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