立川シネマシティは『ベイビー・ドライバー』をどう宣伝? 局地的ヒット狙う戦略を明かす

立川シネマシティ『ベイビー・ドライバー』戦略

 今年の夏はラッキーなことに『ターミネーター2 3D』と『ベイビー・ドライバー』の2本もありました。

 そこで“映画館の宣伝”が重要になってくるわけです。なにしろ規模が小さいということは、周囲で上映していないので商圏が拡大される、というメリットはあるものの、そもそも大きく宣伝されない、というデメリットもあるわけです。

 このデメリットを克服する方法を、考え抜くわけです。

 『ターミネーター2 3D』では、数ヶ月前から最初の『ターミネーター』のデジタルリマスター版のリヴァイヴァルを直前に仕掛けようと仕込みました。この『ターミネーター2 3D』、伝説的な作品にも関わらず、全国21館のみでの公開なのです。都内ではシネマシティと日劇の2館だけ。

 例によってベテラン音響家に調整をお願いして【極上爆音上映】を行い、前作と両方観られるということで話題を作り、『ターミネーター』の2週間上映もヒット、これでぐっと作品認知が高まった効果もあって、『T2 3D』も休日は最大劇場がそこそこ埋まる順調な興行となっています。

 そしていよいよ、8月19日(土)から『ベイビー・ドライバー』公開です。

 やはり大きく当てるならリヴァイヴァルより新作です。激混みの試写の補助席になんとか潜り込み、早めに鑑賞してシネマシティオリジナルの宣伝作戦を練りました。

 そしてホームページにアップし、かつ告知メールでお客様に送ったのが、下の文章です。メアド登録いただいている方は延べ数十万名いらっしゃいますので、このメールで今作を知った方も少なくないと思います。映画館からの宣伝メールも単なる情報だけでなく、読んでもらえるものを書き続ければ、ひとつのメディアになり得ます。

立川シネマシティ「ベイビー・ドライバー」ニュースページ

* * *
ベースの代わりにエンジンふかせ。
ドラムの代わりに銃撃ち放て。
ノイズをかき消してくれよ、iPod。
ROCK, SOUL, JAZZ, そしてHIP HOP。

まったく新しい、アクション+ミュージカル。
メロディと疾走するカーチェイス。
ビートを刻むガンシューティング。
そして、ピュアなラブロマンス。

大作の宣伝はマスコミにまかせた。
シネマシティは、都内でもたった4館でしか上映されないこの傑作を推す。
音楽とエンジンと銃声と。
meyer sound スピーカーが、グルーヴを加速してくれる。
こっち来いよ、ノせてやるぜ。

* * *

 まず最初のパラフレーズでは、音楽作品感を出すために、歌詞とかラップ調にして今作の雰囲気を描写しました。

 これは「つかみ」ですね。とにかくまずは読み始めていただかないことには始まらないので、出だしは短く、印象的にしなければいけません。

 主人公が日常会話を録音して、それをネタにリズムをのせてトラックメイクするのが趣味、ということにも掛けてあります。

 次のパラフレーズでは、本作のウリである映画の構造について説明しています。

 ここでは公式の宣伝では誤解を与えかねないということで避けたのであろう、「ミュージカル」という言葉を使用してしまいました。最初のパラフレーズで説明済みだからです。

 公式では“カーチェイス版『ラ・ラ・ランド』”という言い回しにしていますが、例えば本作に作り方が似ているやはりアクションシーンで音楽を多用する『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』は一種のミュージカルだ、と言っても見当違いとは言われないでしょうし、登場人物が歌わないじゃないか、と怒る人はいないだろうと踏んで直接的なわかりやすさを取りました。

 とはいえ心配なので、続く文章で言い回しを変えて重複させ、説明の補強を図っています。

 そして第3パラフレーズでは、このコラムの第9回でも書いた通りのことの実践ですね。ちょっと引用します。

* * *
大切にしていることは、思わず笑ってしまうようなものであること。あるいは涙がこぼれそうになるようなものであること。胸が熱くなるようなものであること。誰かに話したくなる知識や情報が含まれていること。作品への愛が伝わるものであること。つまり、きちんとエンタテイメントになっているかどうか、ということですね。

* * *

 今回もこの通りの作り方で書いています。

 まず最初の2行でシネマシティの気概と選球眼を示してファンの胸を熱くしつつ、都内でも4館でしか上映しない、という知識を含めることで、思わず「こんな面白そうなのに上映館少なすぎる」と映画ファンがつぶやきたくなるようにしてあります。ここがテクニックですね。

 下の2行は、シネマシティが作品愛をどう具体的にファンに届けるか、という説明です。音響で売っている劇場の得意分野を全力で活かしますよ、ということです。

 そして最後にキャッチコピーとしても使用している、決め台詞。

 車と音楽に、という説明は無用でしょうが、このフレーズは、句読点をはさんで6文字ずつにすることで、バランスが良く画像に配置したときにヴィジュアルが美しいことと、音としては3連符で4拍にして、最初のパラフレーズを受けるカタチで、音楽的にしています。

 また少し俺様キャラ的な言い回しにすることで、今作に多いであろう女性ファンへの訴求も狙っています。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる