『築地ワンダーランド』は“魚を食べる”認識が変わるーー築地市場の深部を捉えたドキュメンタリー

小野寺系の『築地ワンダーランド』評

 継承されていく“築地”と日本の食文化

 料理評論家の山本益博氏は、そのような知識や技術は、「“魚を生で食べる”という、日本人の食文化がベースとなっている」と指摘する。築地は日本の食文化の一端を、そのまま表す存在でもあるのだ。いまどんな魚介類が一番美味しいのか、どんな料理法が適しているのか、お客の要望に応えながら、食材だけではなく、そこにまつわる文化そのものを伝えていく役割もある。

 築地市場の原点になったのは、江戸時代に町人の間で賑わっていた、日本橋の魚市場と京橋の青物市場である。それらが関東大震災の被害に遭って、1935年に築地に移転したのだ。本作では、当時の市場施設の着工や、創業時の姿を残したフィルム映像も紹介される。そこに積み上げられてきた80年の歴史、さらに江戸時代から伝わる無形の知識や技が、市場で働く個人個人の中に伝えられている。もしこの人たちが突然にこの世から消えたとしたら、蓄積された膨大な食文化の知識も失われてしまうだろう。

 また同時に、市場は新しい知識を常に蓄積していく。銀座の先進的なフランス料理店「レストラン エスキス」“シェフ・エグゼクティブ”であるリオネル・ベカ氏は、「食材を売ってくれた仲卸人たちのほぼ全員が、僕たちがどんな仕事をしているか理解するため、わざわざ店にまで食べに来てくれた」と語る。そこには時代に順応していく柔軟性もあるのだ。

 “築地”という場所には、人々の熱意と歴史が集約されている。もちろん、それは築地だけに限った話ではなく、多くの魚市場にもいえることでもあるだろう。私は本作を見た後、社会の姿や食文化について、新しい感覚を獲得することができた。そして、“魚を食べる”ということへの認識も、また新たになったように思う。この記事を読んでいるあなたも、本作を鑑賞して、魚の味わいをさらに深くしてもらえればと思う。そして、私と同じように「とにかく魚を食べたい!」という衝動を感じてほしい。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■リリース情報


『TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』
DVD&Blu-ray発売中
Blu-ray:6,300円+税
DVD:5,400円+税
発売・販売元:松竹
監督・脚本・編集:遠藤尚太郎
取材協力:築地で働く人々(仲卸ほか)
製作・配給:松竹メディア事業部
(c)2016松竹 
公式サイト:tsukiji-wonderland.jp

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