オリジナル作品、アニメから作るか? 実写から作るか? 実写版『ここさけ』の苦戦を考察

『ここさけ』苦戦が示したアニメ実写化の難しさ

 それでも実写化の企画にGOサインが出て、今回は映画作品として劇場公開された『心が叫びたがってるんだ。』。Sexy Zoneの中島健人、そして芳根京子とメインのキャスティングも万全の体制で、ヒットが期待されていたからこその、有力作品がひしめく夏休みの拡大公開であったはずだ。しかし、今回の結果は、キャストの力不足についてなどを指摘する以前に、そもそも作品の企画自体が、少なくとも劇場公開作品としては観客から望まれていなかったという事実を示している。古い感覚ではつい、アニメ作品はオタクの観客層にアピールするもの、実写作品はより一般の観客層にアピールするものと勘違いしがちだが、実はアニメ版『心が叫びたがってるんだ。』のヒットは一般の若い観客層を集めることに成功した結果であったことは公開当時も指摘した通り(国内アニメ映画の勢力図が変わる!? 『ここさけ』興収10億突破が日本映画界にもたらすもの)。実際のところ、アニメ版『心が叫びたがってるんだ。』のヒットは、その翌年の『君の名は。』や『聲の形』の大ヒットの先駆けとなる現象だった。そして、その若い観客層の多くは、今回、実写版でアニメ版の時の記憶を上書きすることを求めていなかったということなのだろう。

 今年の夏には、完全オリジナル作品のリメイクという点で、『心が叫びたがってるんだ。』同様の作品がもう一本控えている。東宝が大きな期待を込めて送り出すアニメ版『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』だ。「アニメ版→実写版」と「実写版→アニメ版」という制作順の違い、そして何よりもオリジナル作品からのインターバルの大きな違い(オリジナルの2年後に公開された『心が叫びたがってるんだ。』に対して、『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』はテレビでの初放送から24年後)があるので、もちろんこの両作品を同列に論じることはできないが、「オリジナル作品、アニメから作るか? 実写から作るか?」問題を考える上でも、重要な作品になるのではないだろうか。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)。Twitter

■公開情報
『心が叫びたがってるんだ。』
全国公開中
監督:熊澤尚人
脚本:まなべゆきこ
出演:中島健人、芳根京子、石井杏奈、寛一郎、荒川良々、大塚寧々
配給:アニプレックス
(c)2017映画「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会 (c)超平和バスターズ
公式サイト:http://kokosake-movie.jp

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