松江哲明の『ハクソー・リッジ』評:人間が一線を超える瞬間を捉えた“戦争映画”

松江哲明の『ハクソー・リッジ』評

 メル・ギブソンは、「極限状態の時に人はどうするのか?」ということに、とても興味があるんだと思います。そこで狂うのも人間だし、狂わないのも人間。だけど、狂わないでいるためには何が必要なのか。そのひとつの答えとして、彼には信仰があったわけです。信仰を徹底するにはここまでしなくてはいけない!と映画を通してメル・ギブソンに説教をされているようにも感じました。宗教を題材にした映画や、宗教団体が作る映画は数多くありますが、信仰を誰にでも分かるように伝えようとする映画はぬるいんです。人に信仰の凄さを伝えるには、ここまでやる必要があるのかもしれないと、僕は感じました。日本の宗教団体にもぜひ頑張って欲しい、と思いました。

 本作はアカデミー賞で編集賞を受賞しています。作品賞は作品自体の価値というよりも、時代の背景や政治的な意味合いが反映されやすいものです。それに対して、編集賞は「賞をあげずにいられない」1本を選んでいるような傾向があるように思います。近年だと『ソーシャル・ネットワーク』『セッション』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』といった作品が編集賞を受賞していました。僕は作品賞より編集賞を受賞した作品に注目しているんですが、なにかとんでもないエネルギーが溢れている、という作品が選ばれているからです。本作も過剰なメル・ギブソン監督のエネルギーをいかにまとめたかという部分で、“編集賞”に相応しい作品だったと言えるでしょう。つまり、これまでに観たことのない、斬新な映画だということです。

(取材・構成=石井達也)

■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』、2017年には『山田孝之のカンヌ映画祭』の監督を山下敦弘とともに務める。山下敦弘と共同監督を務めた『映画 山田孝之3D』が公開中。

■公開情報
『ハクソー・リッジ』
TOHOシネマズ スカラ座ほかにて公開中
監督:メル・ギブソン
製作:ビル・メカニック
出演:アンドリュー・ガーフィールド、サム・ワーシントン、ルーク・ブレイシー、テリーサ・パーマー、ヒューゴ・ウィーヴィング、レイチェル・グリフィスほか
配給:キノフィルムズ
原題:Hacksaw Ridge/2016年/アメリカ・オーストラリア/139分/英語、日本語
(c)Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016
公式サイト:http://hacksawridge.jp/

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