『キンプラ』はなぜ「応援上映」が好まれる? ファンが共有する刹那のきらめき

『キンプラ』ジャンルを越境する魅力

 点と点の間を埋める

 登場人物の心の動きも、演出法も過去から現在の積み重ねにある。そんな“連続性”を重視する思想の元に『キンプリ』シリーズも作られている。けれども劇場版は尺(時間)の制約が大きい。限られた時間の中で、様々な登場人物や設定がハイライト的に描かれることになる。たとえば、ヒロとコウジとカヅキで結成したユニット「Over The Rainbow」(通称オバレ)だが、映像として描かれているのは“結成まで”(プリリズ)と、“活動休止”(キンプリ)と、“卒業”(キンプラ)だけだ。オバレの最盛期は、実はほとんど描かれていない。

 設定についても描かれないものが多くある。たとえば芸能事務所・エーデルローズ主宰の聖と、聖を敵視するシュワルツローズ主宰の仁の生い立ちと関係。映像として描かれたのは、今作の『キンプラ』が初めてだ。作中でなければどこで明かされていたのか? と言えば、これまでのトークイベントやオーディオコメンタリー、アニメ誌などに載る菱田監督のコメントである。

 『プリティーリズム』シリーズからのファンは『キンプラ』で描かれたハイライトな断片情報から、点と点の間にある“空白”を想像で埋めていく。断片情報から「あのキャラクターは、一度は失ってしまったものを取り戻したのだ」と読み取り、涙するのだ。「映画は観客が完成させる」という言葉があるが、『キンプリ』シリーズは、ファンが連続する間を想像することで、真の意味で完成するのである。

“刹那であること”の共有 

 物語のキーフレーズである「きらめき」という言葉をファンが大切にしているのは、それが“刹那である”ことを感じ取っているからだ。本作品は登場人物たちが前に進んでいく成長物語。『プリティーリズム』では、主人公・なるが大好きな親友と別れ、再出発する姿が描かれた。大好きな人がいても“ずっとこのまま”ではいられない。人物たちの時間は決して戻ることなく進んでいく。彼ら彼女らの挫折も再起も見届けてきたファンは、成長を喜びつつも“この瞬間は永遠ではない”ことを感じ取る。

 『キンプリ』シリーズのファンには応援上映が好まれ、上映の週を重ねるごとに振りが統一されていく。サイリュームの光を通じてきらめきという刹那を共有したいのではないだろうか。点と点を解釈で結び物語の“間”を想像すること。それはまるで遠い距離にある恒星同士を結ぶ星座のようでもある。ファンは刹那のきらめきに涙し、サイリュームの光という星座を描くのだ。

■渡辺由美子
アニメジャーナリスト。ビジネスなど異分野同士を繋げることに興味あり。過去、アニメ!アニメ!にて『渡辺由美子のアニメライターの仕事術』 を連載。現在、ASCII.jpにて『誰がためにアニメは生まれる』を連載中。titterID:@watanabe_yumiko

■公開情報
『KING OF PRISM -PRIDE the HERO-』
新宿バルト9ほかにて公開中
監督:菱田正和
脚本:青葉譲
キャラクター原案&デザイン:松浦麻衣
原作:タカラトミーアーツ、シンソフィア、エイベックス・ピクチャーズ、タツノコプロ
アニメーション制作:タツノコプロ
配給:エイベックス・ピクチャーズ
製作:キングオブプリズムPH製作委員会
(c)T-ARTS / syn Sophia / エイベックス・ピクチャーズ / タツノコプロ / キングオブプリズム PH 製作委員会
公式サイト:http://kinpri.com/

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