映画館のWeb予約システムは“エンタメ”となるか? 立川シネマシティの施策

映画館のWeb予約はエンタメになる?

 そこで僕が考えたのは、割引等ではなく、混雑のリアリティを表現することでした。劇場にいるお客さんが「かなりの席が埋まっている」と感じ始めるのは、全座席数の6割が埋まった時くらいからです。7割を超えると、3つのブロックに分かれている劇場なら真ん中のブロックのほとんどが埋まります。こうなると「ほぼ満席じゃないか」と感じてきます。でもこの時点で、300席の劇場ならばまだ90席も空いているのです。

 この感覚を、モニタやスマホのスクリーンで再現できないか。座席が埋まっていくのが直感的に感じられれば、これは今のうちに席を押さえておこう、ということになるはずです。もちろん、両刃の剣でもあるでしょう。こんなに混雑しているなら他の映画館に行こう、と思われるかも知れません。それでも挑戦する価値はあると思いました。

 アイディアはいくつかありましたが、採用したのは“座席表に人を座らせる”というデザイン的な工夫でした。なぜこのことでリアリティが生まれるのか。人型の頭が通路の隙間を塞ぐためです。これがぐっと詰まっている感じを生むのです。

 多くのチケット購入の座席表ページは、×印がつくとか、座席を表すマスがグレイになることでそこが売れていることを表示します。これは表示機能としては十分ですが、無機的です。いわゆるシズル感に欠けます。エンタテイメント施設は、隙あらばエンタテイメントするべきだというのが僕の考え方です。

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 ん、エンタテイメント? 混雑感のデザイン的演出の話じゃなかったのか、と思われたかも知れませんが、このデザインにはファンを楽しませるという、もう一つの裏目的があるのです。

 自分が愛してやまない作品は、多くの人にも愛してもらいたい、というのがファン心理です。自分が大好きな映画がガラガラだと、この映画の良さをわかっているのは俺様だけ、という反転の優越感を持つ喜びもあるにはありますが、たいていは残念な気持ちになります。

 興行収入が何億突破とか、連日満席続出とか、他にもこの映画を好きでいてくれる人がたくさんいると思わせてくれるニュースは、自分が映画を作ったわけでもないのに、心が浮き立ちます。“この喜び”のために、映画を観なくてもシネマシティのHPをチェックしているというファンがたくさんいらっしゃいます。数クリックで混雑状況が見られる利便性と混雑の臨場感のある座席表デザインで、映画を観ている時間だけでなく、その枠外でもファンに楽しんでもらおうという趣向なのです。

 Twitterでシネマシティを検索すれば、無数の「頭おかしい」「どうかしてる」というつぶやきの間に、座席表のスクリーンショットをアップしているファンと高確率で出会うことでしょう。この試みがうまくいっている証拠です。
 
 これらの結果、シネマシティの予約率は驚くほど高いものになりました。休日ならWeb予約率が7~8割という作品もざらで、さほど人気作でなくても3~4割はWeb予約です。

 うまくいき過ぎた結果、直面したのは予約が殺到しすぎてHPにアクセス出来なくなってしまうことが頻発するというトラブルでした。

 特に【極上爆音上映】がヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『ガールズ&パンツァー劇場版』の予約開始直後は何百何千というアクセスがあり、システムが数時間にわたって処理しきれず固まり「シネマシティはスピーカーに金掛けるより、サーバなんとかしろ」とTwitterで罵声が飛び交いました。今に見てろとシステム開発会社と必死に奮闘、現在では最大劇場での上映数回分を数分で完売し切って、かつ、ほとんど遅延もないシステムを作り上げました。どやっ!

 そして現在もさらなる改善に取り組んでいるところです。僕が描く理想のWeb予約システムには、まだまだたどり着いていません。

 Web予約システムだって、もっと面白くなれる。
 You ain't heard nothin' yet !(お楽しみはこれからだ)

(文=遠山武志)

■立川シネマシティ
映画館らしくない遊び心のある空間を目指し、最高のクリエイターが集結し完成させた映画館。音響・音質にこだわっており、「極上音響上映」「極上爆音上映」は多くの映画ファンの支持を得ている。

■公開情報
『BLAME!』
全国公開中
原作:弐瓶勉『BLAME!』(講談社「アフタヌーン」所載)
総監修:弐瓶勉
監督:瀬下寛之
副監督/CGスーパーバイザー:吉平"Tady"直弘
脚本:村井さだゆき
プロダクションデザイナー:田中直哉
キャラクターデザイナー:森山佑樹
ディレクター・オブ・フォトグラフィー:片塰満則
美術監督:滝口比呂志
色彩設計:野地弘納
音響監督:岩浪美和
音楽:菅野祐悟
主題歌:angela「Calling you」
音楽制作:キングレコード
アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ
配給:クロックワークス
製作:東亜重工動画制作局
(c)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
公式サイト:http://www.blame.jp

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