『有頂天家族』は、空に輝く月を見上げるような作品だーー“独特の間合い”と“距離感”を読む

『有頂天家族2』“独特の間合い”を読む

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 対して天狗は、誇り高くプライドも高い。皆、我こそが頂点と信じている。だから狸にはもちろん、ほかの天狗に対しても頂点を譲らない。かつて鞍馬天狗に追い落とされて空も飛べなくなった赤玉先生が、それでも二代目に果たし状を送ったように、赤玉先生の弟子である弁天と二代目は、自分と同じ立場である相手が気に入らない。第五話の弁天と二代目の戦いは、起こるべくして起こったのだ。

 両者の戦いは、あっけなくカタがつき、弁天は川に落ちた。弁天に赤玉先生は悔しいかと問い、「強うなれ」と語った。このシーンでは、老いた赤玉先生が持つ「強さ」を垣間見ることができる。赤玉先生が持つ強さとは何か。それは狸が持つ視点だ。地に暮らす狸は、「阿呆の血」「狸風情」などと自嘲する言葉によって、世の理を受け入れている。世の理とは、愚かな自分や世の理不尽。総領であった偉大な狸でさえ、人間によって狸鍋にされた。理不尽と愚かさは誰の身にも等しく起こりうる。矢三郎たちは、そんな諦念を抱えて生きている。地に落ちた赤玉先生は、長く狸の生を見ていくうちに、狸の視点を獲得したのではないだろうか。

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 理不尽な“底”を見ることでつく精神的な強さが、まだ年若い弁天や二代目には備わっていない。矢三郎は、二代目に向かっていく弁天の顔を見て、負けるだろうと確信していたという。言い知れぬ哀しみをおぼえたのは、気高く空に輝くべき弁天が、地に落ちて狸の自分と同じ地点にいるからだ。

 憧れは、距離が生み出すものだと思う。同じ地点にいるものでは憧れは成り立たず、それゆえに矢三郎の心は闇夜に放り込まれ、行き場を失ったのではないだろうか。

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■渡辺由美子
アニメジャーナリスト。ビジネスなど異分野同士を繋げることに興味あり。過去、アニメ!アニメ!にて『渡辺由美子のアニメライターの仕事術』 を連載。現在、ASCII.jpにて『誰がためにアニメは生まれる』を連載中。titterID:@watanabe_yumiko

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■番組情報
『有頂天家族2』
毎週日曜22時〜TOKYO MXほかにて放送中
原作:森見登美彦「有頂天家族 二代目の帰朝」(幻冬舎)
キャラクター原案:久米田康治
監督:吉原正行
キャスト:櫻井孝宏、諏訪部順一、吉野裕行、中原麻衣、能登麻美子、井上喜久子、梅津秀行、西地修哉、畠山航輔、佐倉綾音、樋口武彦、間島淳司、日笠陽子、中村悠一、島田敏
シリーズ構成:檜垣亮
キャラクターデザイン・総作画監督:川面恒介
美術監督:竹田悠介、岡本春美
撮影監督:並木智
色彩設計:井上佳津枝
3D監督:小川耕平
編集:高橋歩
音響監督:明田川仁
音楽:藤澤慶昌
オープニング主題歌アーティスト:milktub
エンディング主題歌アーティスト:fhána
音楽制作:ランティス
アニメーション制作:P.A.WORKS
製作:「有頂天家族2」製作委員会
(c)森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族2」製作委員会
公式サイト:http://www.uchoten2-anime.com

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