ティーンムービーの活路は「ラブ」や「感動」ではなく「笑い」にあり? 『帝一の國』好調の理由

『帝一の國』好調の理由

 監督は、ソフトバンクの一連のCMや、宇多田ヒカルが出演した「サントリー天然水」のCMなどの演出でも知られる永井聡。これまでも市川準、中島哲也、吉田大八らを筆頭にCMディレクター出身で売れっ子となった監督は数多くいたが、『帝一の國』における永井のケレン味溢れる演出手法は、CMにおける手法をそのまま映画に持ち込んだ、その思い切りの良さにおいて際立っている。そんな永井監督の極端にデフォルメされたコメディ演出とテンポの良さもまた、『帝一の國』がヒットしている要因の一つに違いない。

 近年の日本の映画界では、映画のヒットの法則として、「感動した」「泣いた」といった感動系の口コミがいかに広まるかが重要視されてきて、テレビのCMでも上映中に涙を流す観客の映像などが多用されてきた。しかし、このところは『君の名は。』を筆頭とするアニメ作品がその役割を引き継いでいる一方、若者向け実写映画では「感動」推しの恋愛作品よりも「笑い」推しのコメディ作品の方が「ヒット打率」においては上回っている。以前、「『ティーンムービー』ブームの終焉が示す、日本映画界と芸能界への教訓」において、主に「供給過多」を原因とする現在のティーンムービーの苦境について触れたが、『帝一の國』の好調は、女子をターゲットとした「ラブ」や「感動」ではなく、両性にアピールする「ライトな笑い」が今後のティーンムービーの活路となることを示しているのかもしれない。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)。Twitter

■公開情報
『帝一の國』
公開中
出演:菅田将暉、野村周平、竹内涼真、間宮祥太朗、志尊淳、千葉雄大、永野芽郁、吉田鋼太郎
監督:永井聡
脚本:いずみ吉紘
原作:古屋兎丸(集英社『ジャンプSQ.』)
企画・製作:フジテレビ
制作プロダクション:AOI Pro.
配給:東宝
(c)2017フジテレビジョン 集英社 東宝
(c)古屋兎丸/集英社
公式サイト:teiichi.jp

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