日常を生きる高田渡の姿と言葉があるーードキュメンタリー『まるでいつもの夜みたいに』のリアル

高田渡『まるでいつもの夜みたいに』評

「会場はぎゅうぎゅうで三脚なんかおけない(笑)。自分の席を確保するのが精いっぱいだったから、その位置から撮るしかなかった。もちろん手持ちで。ただ、それが結果的に功を奏した。手持ちで最初から最後まで回したから、なんか感じることがあるとズームしたり、なにか自分なりに渡さんの気持ちに寄り添いながら撮ることができた。これが三脚で固定とかにしていたら、僕はそういった撮影者としてのクリエイト作業をさぼっていたかもしれない。あと、これはもう奇跡としかいいようがないんですけど、たまたまあそこが音声をもっとも取りやすい位置だった。そのおかげで迫ってくるようなリアルなギターの音と、生の声を収めることができた。もうひとつ加えると、僕もこの日がカメラを回すのがほぼ初めてで。実は渡さんがこの日使ったギターは2003年に急逝した音楽仲間の坂庭省吾さんのギター“Martin D-45 1972製”で。いつも使っているギターではなく、この日始めて手にしたもの。お互い初ものを手にしていて、僕が試し撮りなら、渡さんは試し弾きをしていたところもあった。それで妙にお互いの波長があったのかもしれない(笑)」

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 そして、この日のトークではなぜか“死”にまつわることや、過去を振り返ったりしている。まるでその後の自身の運命を暗示しているかのように。こういう話もまずしなかったという。逆を言えば、この日はそれほど自身をさらけ出していたといっていいのかもしれない。それゆえ12年という時間を置いてこの作品は生まれたことを代島監督は明かす。「実は亡くなった直後、記録としてまとめたんです。でも、渡さんをよく知る方々に見せると、あまりに渡さんのありのままの姿すぎて辛くて直視できないと。それでいったんお蔵入りというか。自分の中だけに留めることにしました。でも、12年経って、ようやくみなさん少し心の整理がついたというか。少し向き合うことができるようになって、今回、このように形にすることができました。今後は劇場公開もさることながら、例えば渡さんがまわったライブハウスをめぐる上映ツアーのようのことができないかと思っています」

 偶然が重なって記録された高田渡、最後の単独ライブ。誰もが優しさに包まれ、幸せな気分になり、心がほっと休まる時間がここには流れる。これこそが高田渡という人物の人間性を表しているのかもしれない。

 亡くなってもなお、新たなファンが生まれ、多くの人に愛されてやまない高田渡。その最後の夜に酔いしれてほしい。

(文=水上賢治)

■作品情報
『まるでいつもの夜みたいに』
公開中
出演:高田 渡 中川イサト 中川五郎
監督・撮影・編集:代島治彦
語り:田川 律 題字・絵:南 椌椌 ピアニカ演奏:ロケット・マツ
整音:田辺信道 滝澤 修 宣伝美術:カワカミオサム
配給協力:アップリンク TONE 製作・配給:スコブル工房
2017年/日本/デジタル/カラー/74分
takadawataru-lastlive.com
アップリンク上映ページ
http://www.uplink.co.jp/movie/2017/47685
©スコブル工房

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