誰もがクレイジーに咲きほこる! 英国の異才が放つ『フリー・ファイヤー』の底知れぬ創造性

『フリー・ファイヤー』の底知れぬ創造性

 主軸として登場するのは、まさにアイルランド生まれで、『麦の穂をゆらす風』(06)でも知られるキリアン・マーフィー。ウィートリー監督は彼と「何か一緒にやろう」と互いへラブコールをかけあい、それがついに今回の快作へと結実したのだとか。パズルの細部も自ずと決まっていった。ウィートリー作品の常連マイケル・スマイリー、『コントロール』のサム・ライリー、『シング・ストリート 未来へのうた』の兄貴役が印象的だったジャック・レイナー。そこに武器商人役として『第9地区』のシャールト・コプリーが投げ込まれ、さらに仲介枠として『ローン・レンジャー』(ウィートリーはこの映画が大好きらしい)のアーミー・ハマーと『ルーム』でオスカー女優となったブリー・ラーソンという、これ以上のものはない主演級キャストで固めている。きっと誰もがこの時期、階段を上りゆくウィートリーという異才と一発かましておきたいと願ったはず。彼らが意気揚々とこの企画に乗り込んでいった様子が目に浮かぶ。

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 また、姿かたちは見えないが、本作を手のひらの上で転がすかのように存在感を示すのが「製作総指揮マーティン・スコセッシ」のクレジットだ。英国出身のウィートリーがボストン(を舞台にした)映画を撮るにあたってはスコセッシほどの助言者は他にいないだろうし、ボストンといえばスコセッシの監督作『ディパーテッド』の舞台もまさにココ。歴史的に見てアイルランドからの移住者が多いことからも、IRAが武器調達にやってくるのは確かにうなづける話だ。かくも単なるギャング同士のドンパチではなく、その時代ならではの社会的状況を盛り込みながら「他ではありえない物語」を構築していく点もウィートリーらしい。

 とはいえ、この何もなさそうな空間で、一体どのように話が展開していくのかも重要な点だ。早々に身体のどこかをちょっとずつ撃たれて身体の自由が効かなくなる彼ら。従来のアクション映画と全く違う独特のテンション。傷口を抱えながらのホフク前進。物陰に隠れてコソコソと画策。しばらく気絶。そして時々、また発砲。といった具合に、皆がほぼスローペースでうごめき続ける。それでもなお次々と新たな仕掛けが投入されるので、本当にこのイマジネーションには底がない。

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 ちなみに、銃撃で荒んだ心を癒すのは、フォークソング歌手ジョン・デンバーの名曲群。特に美しいサビのメロディーがグッとくる「Annie's Song」は当時の妻について歌ったものだとか。ただ、デンバーは家庭内暴力などが理由で80年代に妻と離婚。さらにその後、自ら操縦する機体が墜落し彼は97年に帰らぬ人となり……ああ、複雑な気持ちはいっそう増すばかり。作中、アーミー・ハマーが「デンバーの逸話」を口にしようとするが、78年当時、そこで一体何を語ろうとしていたのか気になるところだ。

■牛津厚信
映画ライター。明治大学政治経済学部を卒業後、某映画放送専門局の勤務を経てフリーランスに転身。現在、「映画.com」、「EYESCREAM」、「パーフェクトムービーガイド」など、さまざまな媒体で映画レビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。また、劇場用パンフレットへの寄稿も行っている。Twitter

■公開情報
『フリー・ファイヤー』
全国公開中
製作総指揮:マーティン・スコセッシ
監督:ベン・ウィートリー
出演:ブリー・ラーソン、シャールト・コプリー、キリアン・マーフィー、アーミー・ハマー、ジャック・レイナー、サム・ライリー
提供:ポニーキャニオン/REGENTS
配給:REGENTS
2016/イギリス、フランス/英語/90分/カラー/原題:FREE FIRE
(c)Rook Films Freefire Ltd/The British Film Institute/Channel Four Television Corporation 2016/Photo:Kerry Brown
公式サイト:freefire.jp

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