実写版『美女と野獣』が描く“愛の試練” 現代に問いかけるメッセージとは

『美女と野獣』が現代に蘇った意義

愛のきっかけは、共有から共感へ

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 原作では、夕食を共にするうちに愛が芽生えるベルと野獣。食べることに不自由をしていた時代にとっては、満たされるべき最初のものだったように思う。そしてアニメ版では、オオカミに襲われたベルを野獣が身をていして救ってくれたことをきっかけに距離が縮まる。外に飛び出すベルと、共に戦うパートナーという安心感が魅力に加わった。さらに食事シーンもより詳細に描かれた。ベルに合わせてスプーンを使おうと努力する野獣。その姿を見て、今度はベルが皿を持ち上げてスープをすする。それぞれルールを踏まえて、ふたりなりの新たなルールを見出していく。

 もちろん実写版でも、オオカミや食事のシーンはある。だが、それ以上に本好きという知的好奇心をきっかけにして、惹かれ合っていくさまが丁寧に描かれたのが印象的だった。ベルの口をついて出たシェイクスピアの一節に、野獣が返答する。「愛は目ではなく心で見るもの」「だから絵のキューピッドには目が描かれていない」。恋は思いもよらない相手と落ちるもの。この言葉の持つ意味と、ふたりの行く末が見事にリンクする。

 そして「『ロミオとジュリエット』が好き」と話すベルに、「驚きはしないね」と答える野獣。今まで本の話をしても「退屈そうだ」と村の人に言われてきたベルにとって、内容を理解した上で“キミが好きそうな話だ”と返してくれる野獣に惹かれないはずがない。天井まで埋め尽くす膨大な本を「気に入ったのならあげるよ」といったのは、野獣からベルへの敬意。ベルが本を読み上げながら歩く庭を眺め、野獣は「風景が違って見える」とつぶやく。これは野獣が初めて感じた、相手を理解したいという共感的好奇心の表れだろう。

正義と悪、愛と孤独は、表裏一体

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 野獣が愛を知ったことで、一度ベルを解放する、自己犠牲的な愛は、この物語のクライマックス。アニメ版では描かれなかった、野獣が襲われた圧倒的な孤独を新挿入歌「Evermore(ひそかな夢)」で表現されている。たとえ、戻ってきてくれなかったとしても、自分が野獣のまま孤独に死んでいくとしても、ベルを愛せたこと、その一瞬の輝きは永遠に自分を勇気づけてくれると信じて。愛することは、相手の人生を応援すること。出会ったからには、刹那の別れも、永遠の別れも、きっと訪れる。どんなに相手を愛しく想っても、何も思い通りにならない。まさに愛の試練だ。

 一方、村に戻ったベルを迎えるのは、原作では意地悪な姉たち、アニメ版と本作ではガストンだ。いずれもベルと野獣の間を裂こうとするが、果たして彼らは真の悪人なのだろうか。豊かに暮らしているベルに嫉妬する姉たちも、ベルと結婚したいガストンも、自分の幸せを勝ち取ろうと純粋な気持ちは、むしろ正義だ。だが、自分の思い通りにしようとするのは愛ではない。それに気づけるかどうか、ただそれだけで正義は悪に裏返る。未知なる野獣を敵としたガストンに同調し、立ち上がる村人たち。野獣をかばおうとするベルを、洗脳された者に仕立てあげるのは、まさに情報操作だ。

 さて、今の私たちはどうだろうか。18世紀のフランスに比べて、魔法の道具のような技術も手にした。だが表面的な情報に踊らされていないだろうか。わかりやすさに踊らされる過ちは、誰にでもある。だが、それに気付けば世界を変えることができる。そんなメッセージを、エンドロールで流れてきた「Evermore」から感じた。

 美しいから愛しいのではなく、愛しい気持ちが美しく思わせるのだ。他の人とは違う風変わりなところも、見た目のコンプレックスも、きっと愛しく思ってくれる人がいる。その希望を失ってはいけない。自分が受け入れられたければ、相手を受け入れること。共通点という歩み寄るきっかけをつくること。そして、相手を尊重し、自由と幸せを願うこと。誰もが、そんなふうに、自分や他人を愛することができれば、世界はもっと美しくなるだろう。

(文=佐藤結衣)

ラ・ベルとラ・ベート(美し姫と怪獣)

 

<参考文献>
『ラ・ベルとラ・ベート(美し姫と怪獣)』
著者:ガブリエル=シュザンヌ・バルボ ド・ヴィルヌーヴ

■公開情報
『美女と野獣』
全国公開中
監督:ビル・コンドン
出演:エマ・ワトソン、ダン・スティーヴンス、ルーク・エヴァンス、エマ・トンプソン、ユアン・マクレガー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2017 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:disney.co.jp/movie/beautyandbeast

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