朝ドラの“お約束”崩す『ひよっこ』、脚本家・岡田惠和の狙いは?

 わかりやすいのは、峯田和伸が演じる宗男おじさんの存在だろう。『奇跡の人』(NHK-BS)から引き続き岡田作品登板となる峯田は、岡田惠和の世界観に違和感なく馴染んでいる。素朴な喋り方のせいか、民話の登場人物のような存在である。しかし、明るい変なオジサンに見える宗男だが、背中には(おそらく戦争で負っただろう)痛々しい傷痕がある。その傷については、みね子のモノローグで「戦争から帰ってきて人が変わった」と父から聞かされたとしか、今は語られていない。『ステラ』の同インタビューで岡田惠和は「時代の光と影」を描きたいと語っている。この一見優しい世界の裏側には宗男の背中の傷のように残酷な現実が常に張り付いている。だからこそ一見絵空事めいた世界が切実に響いてくるのだ。

 岡田惠和はドラマから現実を排除しようとする。しかし、排除した空白に、より過酷な現実が映りこんでしまうことがある。それは朝ドラにおいて特に顕著だ。2001年の『ちゅらさん』の時には放送終盤で9.11ニューヨークの同時多発テロ(9.11)が、2011年の『おひさま』の時には放送直前に東日本大震災(3.11)が起きている。 『ちゅらさん』では9.11が起きたことで、劇中ではあえて描かれなかった沖縄の米軍基地の問題を意識せざるを得なくなってしまった。また、3.11の時は疎開という言葉がリアリティのあるものとして浮上し、戦時下に例えられたが『おひさま』で防空壕に避難する姿は、計画停電を連想させた。

 今回の『ひよっこ』は、高度経済成長と東京オリンピックの時代を描くことで3.11を経て、2020年の東京オリンピックへと向かう現在の日本と重ね合わようという意図を感じるが、もしかしたら作り手が想定した以上の現実が、映りこんでしまうかもしれない。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
NHK連続テレビ小説『ひよっこ』
出演:有村架純、沢村一樹、木村佳乃、羽田美智子、佐久間由衣、泉澤祐希、峯田和伸、津田寛治、宮原和、高橋來、佐々木蔵之介、古谷一行、宮本信子ほか
作:岡田惠和
音楽:宮川彬良
平成29年4月3日(月)~平成29年9月30日(土)全156回(予定)
<総合>
(月~土)午前8時~8時15分/午後0時45分~1時[再]
<BSプレミアム>
(月~土)午前7時30分~7時45分/午後11時~11時15分[再]
(土)  午前9時30分~11時[1週間分]
<ダイジェスト放送>
「ひよっこ一週間」(20分)
<総合>
(日)午前11時~11時20分
「5分で『ひよっこ』」
<総合>
(土)午後2時50分~2時55分     
(日)午前5時45分~5時50分/午後5時55分~6時
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/hiyokko/

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