外国映画興行の未来がかかった重要作、『ムーンライト』が好スタート!

『ムーンライト』が好スタート!

 日本の配給会社、特にメジャー系配給会社には、「海外のコメディのセンスは日本人にはわからない」「SF作品やホラー作品は女性客にアピールしない」「有名な俳優が出てない作品は宣伝が難しい」といった先入観、偏見が根強くはびこっている。その中でも最も根強いのは「(アクション映画以外での)黒人俳優が主役の映画には客が入らない」というものだ。黒人俳優が主役のヒューマンドラマやコメディはDVDスルー、配信スルーならまだいい方で、日本ではまったく観られないままの作品も少なくない。

 もちろん、そうした事情の裏付けとなる過去のデータも存在するのだろう。しかし、今回の『ムーンライト』のようにどこかで前例を破らないことには、「アカデミー作品賞ノミネート作の3分の1は黒人俳優の主演映画」(黒人俳優に限らず有色人種の俳優全般に広げれば、今後その比率は増えることはあっても減ることはないだろう)という時代にあって、日本の映画興行が今以上にガラパゴス化していくことは必至だろう。

 配給会社によると、先週末から公開された『ムーンライト』の上映館には、想定していた以上に若い年齢層の観客が押しかけていて、また、そうした若い観客層からのリアクションがとてもいいという。『ムーンライト』を応援することは、作品自体を応援することだけでなく、配給会社を応援することでもなく、日本における外国映画を取り巻く環境の「未来」を応援することでもあるのだ。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)。Twitter

■公開情報
『ムーンライト』
TOHOシネマズシャンテほかにて全国公開中
監督・脚本:バリー・ジェンキンス
エグゼクティブプロデューサー:ブラッド・ピット
出演:トレバンテ・ローズ、アッシュトン・サンダース、アレックス・ヒバート、マハーシャラ・アリ、ナオミ・ハリス、アンドレ・ホーランド
提供:ファントム・フィルム、カルチュア・パブリッシャーズ、朝日新聞社
配給:ファントム・フィルム
原題:「MOONLIGHT」
2016/アメリカ/111分/シネマスコープ/5.1ch/R15+
(c)2016 A24 Distribution, LLC
公式サイト:moonlight-movie.jp

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