有村架純『3月のライオン』義姉役はなぜ“色っぽい”のか? 神木隆之介との関係から考察

『3月のライオン』有村架純の“色っぽさ”

 映画は、神木のモノローグを多用するが、その中で、「対局においては勝ったほうが疲弊しているものだ」というようなことが語られる。このテーゼを、神木と有村の関係性に照らし合わせるならば、将棋では神木に敵わない有村は、神木との関係性においては一貫して<負けてはいない>状態をキープしており、神木もまたそれを受け入れている。この<共有>こそがエロティックであり、大げさに言えば、禁断めいた匂いを醸し出している。過酷な勝負の世界でプロとして生きている神木は当然のように勝利こそが大命題であり、勝ち続けるということは疲弊し続けていくことに他ならない。そんな世界に棲息しているからこそ、神木は学校内に友人などいないし、教師、高橋一生(神木も、高橋も、別な場面で、それぞれカップ麺を食べる描写があるのは両者の結びつきを示しているのだろうか)に<保護>されてもいる。彼にとって、学校は、勝ち負けのない世界である。だが、たびたび泊まりに来る有村との関係性において、神木が有村に<勝つ>ことはない(後編ではあるのかもしれないが)。言い換えるならば、有村は神木との関係性において<勝たせてはあげない>という状態を持続させている。両者ともに無意識の可能性も高いが、ふたりとも、あえて、有村が神木に将棋で勝ち続けていた頃のまま<時間を止めて>いる。それゆえ、プロ棋士である神木は休息することができる。勝つことは疲れるが、有村を相手にしたときは、勝たなくていいからである。

 有村の、上から目線の乱暴な言葉遣いはだから、本人の意志はともあれ、神木にとっては一種の優しさになりえる。と、まあ、説明が長くなったが、そのような<粗暴な優しさ>が伝わるように有村は発語している。こうした発語が、ふたりの距離感を醸成し、ふたりのシーンからツンデレの風味を生み出している。ままならぬ日常を生きる(そのことは、ハイヒールでのつかつかつかと進んでいく歩行で露わになる)有村は、神木の部屋に<甘え>に来ていることはもはや間違いがないが、心のどこかで、この関係がずっと続くわけではないことを察知してもいる、と感じさせるほどに、有村の芝居は深まっている。

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 すべては、一時(いっとき)のこと。そんな雰囲気が、有村と神木のシーンには流れている。つまり、この血のつながらない姉弟は、いつまでも、このような関係性をキープしているわけにもいかないということが、うっすらと感じられる。そうしたコーディネートは、あからさまな優しさは、断固として匂わせない、有村の抑制の効いた演技によってもたらされている(逆に言えば、いくつかの<視覚効果>は、優しさの表出を封じるための目くらましだったのかもしれない)。

 それしにても。有村が女子高生を演じた『ビリギャル』、女子大生に扮した『何者』の後の作品として『3月のライオン』を観ると、3つがまったく別個のキャラクターであるにもかかわらず、ひとりの人物の成長に、それぞれ別な角度から光を当てたようにも感じられる。それは、芝居が一定だということではない。この女優が一貫して、人間の普遍性を見つめていることを意味する。別人になることも大切だが、女子高生のときにしか訪れない真実、女子大生のときにしか訪れない真実を体現することも大切である。そのときにしか訪れない、一時のことを表現できる演じ手だからこそ、『3月のライオン』の有村架純は色っぽく、そして、せつない。そして想う。色っぽいということは、なんて、せつないことなのだろうと。誰かの色っぽさは永遠ではない。だから、せつないのだと、彼女を見ていて気づかされた。

■相田冬二
ライター/ノベライザー。雑誌『シネマスクエア』で『相田冬二のシネマリアージュ』を連載中。otocotoで『Invitation』の元編集長・小林淳一と「SMAPとは何だったのか」緊急対談掲載中。最新ノベライズは『嘘の戦争』(角川文庫)。

■公開情報
『3月のライオン』
【前編】公開中 【後編】4月22日(土)2部作連続・全国ロードショー
監督:大友啓史
原作:羽海野チカ『3月のライオン』(白泉社刊・ヤングアニマル連載)
脚本:岩下悠子、渡部亮平、大友啓史
音楽:菅野祐悟
出演:神木隆之介、有村架純、倉科カナ、染谷将太、清原果耶、佐々木蔵之介、加瀬亮、伊勢谷友介、前田吟、高橋一生、岩松了、斉木しげる、中村倫也、尾上寛之、奥野瑛太、甲本雅裕、新津ちせ、板谷由夏、伊藤英明、豊川悦司
製作:『3月のライオン』製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース、ROBOT
配給:東宝=アスミック・エース
(c)2017 映画「3月のライオン」製作委員会
公式サイト:3lion-movie.com

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