NHK放送中『火花』のキャスティングは完璧だーー林遣都&波岡一喜の奇跡的な演技を考察

『火花』林遣都&波岡一喜の魅力

 心の葛藤を描くことを得意とする廣木隆一が総監督というのも大きい。映画『ヴァイブレータ』や『軽蔑』など、低温火傷のような心の傷を、時には過激に舐め合う。そんな映画を作る監督なだけに、『火花』のふたりの感情の揺れを見事に演出している。映像も美しく、終電過ぎまで飲んだ帰りの人がいない夜の商店街や、徹夜明けの人がまばらな早朝の景色の何とも言えない疲労感と爽快感は、まさに誰しもが通過する青春時代を思い出す景色。ひとつのシーンの景色だけでも感情を揺さぶるというのは、Netflix制作だからできる丁寧な演出だからこそ。

 そんな『火花』が、板尾創路監督、主演に菅田将暉と桐谷健太により映画化され、11月から全国東宝系で公開されることが決定している。原作に忠実なキャスティングや演出で成功したドラマに対し、人気者のふたりが主役。演技に定評があるふたりだが、本人たちのキャラが既に出来上がっているのがどういった結果をもたらすのか。そして監督も、芸人側の人間で現実のお笑い業界を知り尽くしているだけに、そこを冷静に演出することができるのか。板尾監督曰く「最終的に“スパークス”と“あほんだら”という2組の漫才コンビを誕生させ、M1グランプリに出場させたいです」とのこと。この言葉を聞いた時、そもそもドラマ版とは『火花』に対する考え方が違うのかなと感じた。ドラマはゆっくり人物を描けた分、2時間ほどの映画でどこまでふたりに感情移入させることができるのだろうか。

(文=本 手)

■番組情報
『火花』
毎週日曜 よる11時〜(45分・最終回のみ50分予定)
出演:林遣都、波岡一喜、門脇麦、好井まさお(井下好井)、村田秀亮(とろサーモン)、菜葉菜、山本彩(NMB48/AKB48)、徳永えり、渡辺大知、高橋メアリージュン、渡辺哲、染谷将太、田口トモロヲ、小林薫
原作:又吉直樹『火花』(文藝春秋)
脚本:加藤正人、高橋美幸、加藤結子
監督:廣木隆一、白石和彌、沖田修一、久万真路、毛利安孝
(c)2016YDクリエイション

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