健闘? それとも期待外れ? 初登場4位『沈黙ーサイレンスー』の興行を考察

『沈黙ーサイレンスー』の興行を考察

 その点、同じく日本を舞台にした作品ではあるものの、『沈黙ーサイレンスー』における日本人の描写は、隠れキリシタンを弾圧する側にも、される側にも、安易な感情移入を許さない厳しさがある。スコセッシ自身が語っているように、そこでの暴力描写は一方的に日本の過去を糾弾するようなものではなく、むしろクリスチャンとしての深い自省に基づいているものではあるが、『ラストサムライ』の心地良さとは真逆にある作品と言えるだろう。

 そんな作品上の特性もあってか、『沈黙ーサイレンスー』は公開日からスタートダッシュとはいかなかったが、今週の平日に入ってからは、これまでスコセッシ監督作品とは縁がなかった幅広い層の観客を集客して好調に推移しているという。作品内容、及び日本人役者の熱演に対する高評価も確実に口コミで広まりつつあるので、息の長い興行を期待したい。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)。Twitter

■公開情報
『沈黙-サイレンス-』
全国公開中
原作:遠藤周作『沈黙』(新潮文庫刊)
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:ジェイ・コックス、マーティン・スコセッシ
撮影:ロドリゴ・プリエト
美術:ダンテ・フェレッティ
編集:セルマ・スクーンメイカー
出演:アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニーソン、アダム・ドライバー、窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシ
配給:KADOKAWA
(c)2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:http://chinmoku.jp

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