ゲイたちの戦いに宿る、R・エメリッヒの作家性 『ストーンウォール』の破壊的な美しさ

『ストーンウォール』が示すエメリッヒの作家性

 この作品がエメリッヒにとって低予算の「小品」であることが幸いしたことは言うまでもなく、彼のフィルモグラフィ中、最も「作家性」の強いものとなったことは確かである。しかし、残念なことに放出されたエネルギーが完全に燃焼されなかったこともまた事実である。自身の生き方そのものを革命的行為にまで高めることで、一つの青春物語を終えた主人公が故郷の町に帰ってくる場面には決定的な違和感があった。

 故郷ではアウトローである青年の帰還は、ちょうどジョン・フォードの西部劇におけるジョン・ウェインの生還のようである。これほどまでにアメリカ映画らしい主題に、エメリッヒが自覚的でなかったはずがない。だがエメリッヒは当のアウトローたちを温かく迎える女性たちにまでは気を配らなかったようなのだ(これは彼がやはり女性には興味がないということなのだろうか?)。

 再会を果たした兄妹の喉を潤そうと、レモネードを運んできた母親。その腰に巻かれたエプロンは白色ではなく、さらにそれが風に翻りもしない。ジョン・ウェインを迎えるヴェラ・マイルズのエプロンの「白」が、ひらひらと風に翻る爽快さはアメリカ映画の永遠のイメージである。もし、エメリッヒがその伝統的イメージをも顕現させていたのなら、これは間違いなく映画史に残る一本となっていたはずである。とは言え、そういう「不完全燃焼」をしてしまうあたりも含めてエメリッヒの「作家性」といえるのだが。

(文=加賀谷健)

■公開情報
『ストーンウォール』
12月24日(土)より、 新宿シネマカリテほか全国ロードショー
監督・製作:ローランド・エメリッヒ
製作:マーク・フライドマン、マイケル・フォッサ
脚本:ジョン・ロビン・ベイツ
撮影:マルクス・フォーデラー
編集:アダム・ウルフ
音楽:ロブ・シモンセン
出演:ジェレミー・アーヴァイン、ジョナサン・リース・マイヤーズ、ジョニー・ボーシャン、カール・グルスマン、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ジョーイ・キング、ロン・パールマン
(c)2015 STONEWALL USA PRODUCTIONS, LLC
公式サイト:http://www.stonewall.website/

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