『3月のライオン』アニメは秀逸な仕上がり! 制作会社シャフトの個性はどう活かされたか

制約から生まれたシャフトの個性

 新房昭之監督は、その独特の演出により、作家性の強いタイプと認識されているかもしれない。確かに業界随一のハイコンテクストな作風であるが、実際にはラブコメからアクション、日常ものまで、幅広い原作ものに挑戦している。インタビューでも「自分は作家ではない」との発言をしているし、より売れるものを手がけたいと考えて、オリジナル作品には消極的であると発言している。ではなぜ、あのような個性の強い演出スタイルを確立させたのだろうか。『荒川アンダー ザ ブリッジ』製作時に新房監督は、自身の演出スタイルについてこのように語っている。

実は、最初の動機はポジティブと言えるものではなかったんです。今では少し落ち着いてきたんですが、アニメは2000年代に本数がぐっと増えました。そのとき、特に作画が人手不足になったんです。そうなると演出的に狙いたいカットがいつも必ず作れるわけじゃない。時間的、人的制約の中で、一定のクオリティを保つにはどうしたらいいんだろうと考えはじめたんですね。今の演出技法は「安全策」というところもあって、制約がある中、クオリティを安全に追求していった結果でもあるんです。

参考:ASCII.jp:新房監督のアニメ論 「制約は理由にならない」 【前編】 (1/4)|渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」

 このようにある種の制約によって新房監督の個性が生まれたというのは興味深い。制約が新しい創造性を生み出す、という話は様々な例がある。例えば日本アニメの発展は予算削減のためにリミテッドアニメーションを採用せざるを得なかったこととも、深い関係があるとよく言われている。日活ロマンポルノやVシネマは低予算であるが、そこを逆手にとって個性を発揮した監督が何人もいた。不便さが想像力を刺激し、新しいものを生み出すというのは、映画に限らず文化全般の発展について同じことが言えるだろう。

 新房監督が自身を作家性の強いタイプではないと言うのも、傍目からみたあの強烈な個性も、新房監督にとっては、スタイルというより、厳しい制約の中で作品を仕上げるためのテクニックという位置づけだと思われる。新房監督は、どんな条件でもきちんと作品を仕上げることをなによりも重視する、職人気質の監督なのだろう。

 『3月のライオン』にも新房監督の職人気質が全編から見て取れる。シャフトらしさを抑える場面は抑えて、心象風景のようなシーンでは培った独特の演出で盛り上げ、原作の持つハートフルさとプロの棋士の厳しさ、そして主人公の繊細をバランス良く表現してみせている。本作は“職人”新房昭之の振り幅の広さが堪能できる秀作だ。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■放送情報
TVアニメ『3月のライオン』
毎週土曜23:00~NHK総合テレビにて放送中
原作:羽海野チカ
監督:新房昭之
アニメーション制作:シャフト
製作:「3月のライオン」アニメ製作委員会
公式サイト:http://3lion-anime.com/

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