『深夜食堂』は世界中の夜の人々を呼び寄せるーー回を重ねるごとに魅力増す“新生日本映画”

『深夜食堂』は世界中の夜の人々を呼び寄せる

 しかし『深夜食堂』はその保守性と完成度のなかにぬくぬくともしていない。第四シーズンともいえる『深夜食堂 -Tokyo Stories-』は世界百九十カ国で観られるという。その公開・流通形態が意味するのは、このシリーズが日本国内で人口に膾炙したことを納得させる、懐かしい食べ物と人情喜劇(この懐かしいは両者にかかっている)、という在り方を、エキゾチックな日本食とドメスティックな日本人の感情生活、というふうに顛倒させて問うことではないか。

 ……いや、大丈夫。いけると思う。伝わる、好評をもって迎えられるのではないか、と思う。実際のところ、このシリーズの、回を重ね、年数を重ねるごとに厚みを増し、細部を充実させていく美術の蓄積や、キャストの演技と佇まいの練られ方は、まぎれもなく新生した日本映画的なものであり、ネットという新たな環境にあってもその良さがすべてを牽引している。そこに痛快なものと信ずべきものとパワーを感じる。

 そして、エドワード・ホッパーやヘミングウェイも、夜の暗さや冷たさを知り、ひとが生きるための、そこからの避難所を描いた。あらゆるところに夜はある。『深夜食堂 -Tokyo Stories-』が用意するあの場所は、世界中の夜の人々を呼び寄せるに違いない。
 
■千浦僚
1975年生。映写技師(ACT、シネ・ヌーヴォ、プラネットstudyo+1、東梅田日活、映画美学校試写室、アテネフランセ文化センター、シネマヴェーラ渋谷など)。元・オーディトリウム渋谷支配人。〈映画感想家〉として『映画芸術』『nobody』に寄稿。『キネマ旬報』/「REVIEW」(新作星取り表コーナー)に参加。自身のTwitterでも、映写室より映画に伴う広範囲な雑感、感想等を頻繁に呟いている。

■作品情報
Netflixオリジナルドラマ『深夜食堂-Tokyo Stories-』(全10話)
原作:安倍夜郎「深夜食堂」(小学館「ビッグコミックオリジナル」連載中)
監督:松岡錠司、山下敦弘、小林聖太郎、大森立嗣、吉田康弘、野本史生
美術:原田満生
フードスタイリスト:飯島奈美
主演:小林薫
出演:不破万作、綾田俊樹 、安藤玉恵、山中崇 谷村美月、篠原ゆき子、須藤理彩、小林麻子、 吉本菜穂子、平田薫、宇野祥平、金子清文、中山祐一朗、吉見幸洋、高橋周平、中沢青六、野嵜好美、松重豊、光石研、多部未華子、余貴美子、オダギリジョー
ゲスト出演:片岡礼子、近藤公園、佐藤B作、新井浩文、伊藤麻実子、矢本悠馬、岡田義徳、コ・アソン、豊原功補、森下能幸、宮下順子、戌井昭人、緒川たまき、風間トオル、志賀廣太郎、平田満
(c)2016安倍夜郎・小学館/ドラマ『深夜食堂』製作委員会
公式サイト:https://www.netflix.com/jp

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