松江哲明の『ぼくのおじさん』評:松田龍平の“おじさん”は現代のアウトロー像

松江哲明の『ぼくのおじさん』評

『何者』と『ぼくのおじさん』は正反対?

 最近の自主映画は、やたら暴力とか、ファンタジーとか、“キラキラ”したものばかり作っている印象があります。でも、僕らの世代は、ロマンポルノを名画座などで観て、その影響を受けている作り手がたくさんいます。そのせいか、ダラダラしている人、だらしない人を主役にしているものがすごく多いんです。周りからは四畳半の狭い世界しか描いていないとも言われますけど。一方で最近の若手も、狭い世界を描いているんだけど、それがやたらアグレッシブというか、世界の外に出たい願望が透けて見えます。でも、僕らの世代はここしか世界がないから、グダグダしているけど日常の中に面白みやドラマを見出すというものなんです。

 漫画家のいましろたかしさんと一緒に映画を作った時、「面白くするな」と言っていましたけど、それは「みんなが面白いと感じることをやるな」という意味なんです。要するに、お客さんに媚びるのではなく、自分自身が何を面白いと思っているか、それを遠慮せずに出せと。でも、いまの若手って、「僕の面白いと感じることをみんなも共有して!」というテンションが過ぎるというか。音楽で言えば、ブルースではなくて、ロックとかラップとかみたいな感じで、自己主張が強いんですね。もちろん、そのパワーがある映画もあっていいと思うんですが、『ぼくのおじさん』のような四畳半的な映画もやっぱり必要だと思います。

 先日、『何者』を観ていてびっくりしたんですが、これが今の若い子のリアルだとしたらすごく可哀想だと思ったんです。こんなにも八方塞がりで出口がないのかと。世の中的には『何者』がリアルで、『ぼくのおじさん』はファンタジーですよね(笑)。『何者』を楽しめる人、その中で描かれている人たちから、おじさんみたいな人はどう見られているのか気になりますね。意外に、おじさんが“憧れ”になるのかなあ。でも、おじさん側からしたら『何者』側の人たちは憧れなんかではなくて、理解できないものとして映るはず(笑)。今みたいな世の中、意外とたくましい人はおじさんみたいな人だと思うんですけどね。変わらない人が社会で一番強いですから。

 そういう意味では『何者』と『ぼくのおじさん』、正反対の映画になっていると思うので、二本立てで見て欲しいですね。

(取材・構成=石井達也)

■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』の監督を山下敦弘とともに務める。

■公開情報
『ぼくのおじさん』
全国上映中
監督:山下敦弘
出演:松田龍平  大西利空(子役) 真木よう子 戸次重幸 寺島しのぶ 宮藤官九郎 キムラ緑子 銀粉蝶 戸田恵梨香
原作:北杜夫「ぼくのおじさん」(新潮文庫刊)
(c)1972北杜夫/新潮社 (c)2016「ぼくのおじさん」製作委員会
公式サイト:www.bokuno-ojisan.jp

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