『手紙は憶えている』アトム・エゴヤン監督が語る、いま“ホロコースト”を描く意味

『手紙は憶えている』監督インタビュー

「この作品を作りたかった理由のひとつがプラマーだった」

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ーー今回の作品は、あなたのルーツでもあるアルメニア人虐殺を描いた『アララトの聖母』とも繋がるような作品だと感じました。自身の出自が本作に与えた影響もあるのでは?

エゴヤン:ホロコーストを描くということは、誰もが知っている事件を描くことだ。今回の作品では、そのような題材を扱いながら、トラウマがいかに人物の中に長く残っていくかという極めて私的なテーマと向き合うことができた。『アララトの聖母』は、歴史の説明をしつつストーリーを進めなければいけない上に、四世代に渡る物語だったため、本当に複雑な構造で作る必要があった。それに対して、今回の作品で描いたホロコーストは説明が不要で、細かいディテールを説明することなしに、一風変わった旅路に観客を誘うことができる。ただ、物語の後半で登場する少女が「ナチってなに?」と言うように、ホロコーストも次の世代では誰もが知っているような集約的な記憶ではなくなるかもしれないね。

ーーその『アララトの聖母』以来のタッグとなるクリストファー・プラマーとの仕事はいかがしたか?

エゴヤン:この作品を作りたかった理由のひとつがクリストファーだったんだ。脚本を読んだとき、途中から彼のイメージが浮かんできて、いまの彼の人生の段階になんてぴったりな役なんだろうと思った。この作品に出演してもらうにあたって、彼が出演した舞台作品をすべて観劇し、彼の自伝も読んだ。じっくり2回読んだおかげで、彼自身が忘れてしまったような出来事まで説明できるようになってしまったよ(笑)。今回のゼヴの役作りで決定的だったのは、撮影の何ヶ月も前にコネチカット州にある彼の家を訪問したときのことだった。僕を出迎えてくれた彼はシャワーを浴びたばかりで、髪が濡れて後ろに流されていた。それを見た瞬間に、僕は彼に告げたんだ。「その髪型でいこう!」とね。それは、これまでに見てきた彼のどのスタイルとも違っていた。今思えば、あれがゼヴを作り上げていく行程の最初の共同作業だったね。彼はこの作品で、いままでに見せたことのない芝居を披露している。ゼヴは非常に不自然な環境に置かれながらも、クリストファーはとても自然な演技をしている。その不自然さと自然さの緊張感が、彼の芝居をより魅力的にしているんだ。まさに“演技マシーン”だね。それに、マーティン・ランドーやブルーノ・ガンツをはじめとする、この年齢の素晴らしい役者たちも人生最高と言える演技をしている。彼らを演出している瞬間、これを世界にいつシェアできるのかすごくワクワクしていたから、ぜひその目で確かめてほしいね。

(取材・文=宮川翔)

■公開情報
『手紙は憶えている』
TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中
監督:アトム・エゴヤン
脚本:ベンジャミン・オーガスト
出演:クリストファー・プラマー、ブルーノ・ガンツ、ユルゲン・プロホノフ、ハインツ・リーフェン、ヘンリー・ツェニー、ディーン・ノリス、 マーティン・ランドー
原題:REMEMBER/2015年/カナダ=ドイツ/95分/ヴィスタサイズ/5.1chサラウンド
(c)2014, Remember Productions Inc.
公式サイト:http://remember.asmik-ace.co.jp/

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