『隻眼の虎』と『レヴェナント』、その共通点と違いとは? 韓国ノワール旗手の特異な世界

『隻眼の虎』が描く虎と男のノワール

“復讐劇+ファンタジー+ノワール”の不思議な魅力

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 ともに実話をベースとした非常に重い作品ではあるが、『隻眼の虎』が『レヴェナント』と全く違うのは、ファンタジーやノワールものといった様々な要素が混然一体となっている点である。『レヴェナント』の熊は超自然的な存在として立ちはだかるが、グラスの復讐の対象はあくまでトム・ハーディ演じる裏切者・フィッツジェラルドなので、人間同士の物語が展開する。対する『隻眼の虎』マンドクの復讐相手は、圧倒的な戦闘力を持つ隻眼の虎・デホである。ところが物語が進むにつれ、デホはマンドクと同じく感情を持った“父親”であることが明らかになっていく。フンジョン監督は、感情豊かでありながら獣らしいデホをCGで表現するために、『ライフ・オブ・パイ』を参考にしたという。同作で主人公とボートで漂流するベンガルトラ“リチャード・パーカー”は、猛獣として登場するが、やがて人間のようにコミュニケーションをとるようになる。同じように、『隻眼の虎』でも、デホがマンドクの息子に対して非常に人間的な“ある行動”をとるシーンが登場するのである。フンジョン監督が『ライフ・オブ・パイ』のように“人間のようでありながらリアリティを持つ虎”を目指したのは明らか。重厚な復讐劇に絶妙なファンタジー描写が登場するので、面食らう方も多いのではないだろうか。

 そして、もうひとつ忘れてならないのが、韓国ノワールの旗手であるフンジョン監督らしい無情な決着のつけ方である。猟師として多くの虎を狩ってきた男・マンドクと、猟師やその家族を殺戮してきたデホ、2人の父親が雪山でボロボロになりながら、互いの因果に終止符をうつべく対決する姿に胸を熱くなるはず。そして、彼らが迎える壮絶な結末は、『新しき世界』や『オールド・ボーイ』のような韓国映画らしい無情さにあふれている。

 血沸き肉躍る“vsアニマルもの”であり、父親の復讐と贖罪の物語であり、非情で無情なノワールものでもある。それが『隻眼の虎』の不思議な魅力である。

■藤本 洋輔
京都育ちの映画好きのライター。趣味はボルダリングとパルクール(休止中)。 TRASH-UP!! などで主にアクション映画について書いています。Twitter

■公開情報
『隻眼の虎』
10月1日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、10月29日(土)よりシネ・リーブル梅田ほか全国順次公開
出演:チェ・ミンシク、チョン・マンシク、キム・サンホ、チョン・ソグォン、ソン・ユビン、大杉漣
監督・脚本:パク・フンジョン
撮影:イ・モゲ
音楽:チョ・ヨンウク
武術監督:ホ・ミョンヘン
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