『レッドタートル ある島の物語』は"人生そのもの”を提示する 天才アニメーション作家の成熟

『レッドタートル』天才作家が辿り着いた境地

 本作は、スタジオジブリがはじめて海外の監督を招聘し制作した長編作品だ。フランスの制作会社に協力を仰ぎ、海外スタッフによる作品づくりをするという画期的な企画なのである。その核となる脚本と画コンテは、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督が都内に移り住んで、高畑勲に助言を与えられながら作ったという。そして依頼から足掛け10年の月日が流れ、とうとう本作が完成した。これは企画から14年の歳月を要した超大作である、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』にも迫る。作家として充実期にある天才の10年は、あまりにも重い。このような作品を楽しめる機会は、我々観客にとっても何度もないはずである。

 無人島に流れ着いた男は、ある赤い亀と出会うことによって、人生を一変させることになる。この日本の民話などにも近い物語は、何かの教訓を観客に与えるようでいて、解釈の余地は果てしなくひらかれている。この内容の意味については、評論家などの考察は無用である。『紅茶の香り』がそうであったように、作品内の出来事を個々の観客が楽しみ、自分の人生観や体験と重ね合わせ、何年も時間をかけてゆっくりと考えていけばよい。そこには、もはや「傑作」とか「映画」の枠すら超え、人生そのものが提示されている。このような、人生といつも共にあるような作品と巡り合うことができるというのは、幸運なことではないだろうか。アニメーションを愛する者はもちろん、人生を生きているすべての観客に、本作を劇場で体験してほしい。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『レッドタートル ある島の物語』
全国公開中
原作・脚本・監督:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット
脚本:パスカル・フェラン
アーティスティック・プロデューサー:高畑勲
音楽:ローラン・ペレズ・デル・マール
製作:スタジオジブリ ワイルドバンチ
配給:東宝
(c) Kazuko Wakayama
公式サイト:http://red-turtle.jp/

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