庵野秀明に実写を撮らせた男、甘木モリオが語るプロデューサーの資質「嫌われる覚悟が必要」

シネバザール代表・甘木モリオインタビュー

マニアックな題材をメジャーに作る

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ーー今年は『シン・ゴジラ』をはじめ、邦画の大作に当たりが多いように感じています。日本映画界になにか変化があったのでしょうか?

甘木:作り手たちが、たまたま、新しいものを作りたいとか、他人がつまらないと言っても自分が面白いと思うのはこういう映画だって強く意識している人たちがいて、作家性の強い映画というか…それがたまたま今年 大手映画会社によって配給されたということではないでしょうか。まあ そうは言っても日本の映画の市場規模ってせいぜい2000〜2500億円くらいで、他の産業と比べたらかなり少ないですよね。

ーー音楽の市場規模も同じくらいですね。

甘木:だから、音楽も映画も言ってみればサブカルってことです。そもそもがマニアックなものなんです。かつては総人口の一割くらいが観る映画もあったけれど、今はもうそんなことはなくて、そもそも映画を観る人がマニアックな人たちなわけだから、彼らに向けてマニアックに作らないとヒットしないと思っています。ただ、10万人に向けた映画を作るのであれば、割と簡単に作れると思うんですが、100万人、200万人、300万人に向けるとなると、マニアックな人たちだけじゃなくて、1年に1回しか映画を見ないような観客たちもターゲットにしなければいけないわけです。そうなった時に、これは最近強く感じる、マニアックな食材をメジャーに料理するというのが有効なんじゃないかと思います。大勢の観客を相手にしようと思ったら、それが1番いいんじゃないかと。題材はよりマニアックに、作り方はよりメジャーにというのが、僕の中の方程式で、最近のヒット作はそういうものが多かったように思います。

ーーその方程式を、具体的にいうと?

甘木:まず、キャスティングは大きいですよね。この女優さんがこんなことをやるんだ!?みたいな驚きが必要だと思います。例えば沢尻エリカさんが、『ヘルタースケルター』のりりこ役をやる。『ヘルタースケルター』の原作は、岡崎京子さんというサブカルの天才漫画家が描いている作品で、沢尻エリカさんは基本的にメジャー街道を突き進んできた方です。途中色々あったけど。その世界が違う2人が合わさることで強烈な化学変化が起こる。マニアックな題材をメジャーに作るという一つの例です。映画業界にいる人たちって、大体みんなマニアックな映画ファンなわけだから、普通に作ったらマニアックになってしまう。そこをいかにメジャーな作り方をするかが大事ですよね。ただ、『シン・ゴジラ』はメジャーな題材を超マニアックに作ったわけで、僕の方程式とは真逆なので、もう一度考え直さないといけないかもしれません(笑)。

ーーテレビ業界では、企画を立てるときに座組みなどをある程度整えた段階で、出来上がりについて“見えた”とか“見えない”って言い方をするんですよ。ディレクターがこの人で、出演がこの人で、台本がこの人で、だいたい“見えた”って。で、“見えた”企画は、70〜80点の安定感のある作品には仕上がるんです。だけど経験上、ある程度は見えない部分を残しておかないと、ミラクルが起こらないこともわかっていて。どこかに「?」が残るものじゃなければ、『シン・ゴジラ』みたいな作品にはならないんでしょうね。

甘木:お客さんもその「?」があるからこそ、劇場に足を運ぶわけですからね。高根さんのいう“見えた”企画って、おそらくお客さんも同じように“見えて”いるんですよ。だから、見にいかなくていいやってなってしまう。僕の個人的な意見としては、テレビこそどんどん挑戦して、20点の企画も150点の企画もやってほしいと思いますね。テレビ好きだからあえて言わせて頂くと、失敗しても放送免許を取り消されるわけじゃないんだから。80点を目指して50〜60点になってしまうより、“見えない”企画でときどき150点を出してほしいなと思います。たとえばですが、人員をシャッフルしてしまうのも面白いんじゃないですかね。ディレクターがいて、演者がいて、構成作家がいてってなったとき、あえて演者にディレクターをやらせてみたりしたら、意外とすごい作品が生まれてくるかもしれない。やってみてダメだったら、「やっぱりダメだったね」ってことでいいじゃないですか(笑)。

ーー検討してみます(笑)。プロデューサーの資質として“目利き”のほかに必要なことがあったら、教えていただけますか?

甘木:言い方が適切かどうかわからないけど、人に嫌われてもいいと思うことじゃないですかね。孤独に耐えられるというか。やっぱりプロデューサーは、映画の現場において異質な存在なんですよ。だって、みんなと違うことを考えてるんだもの。だから、異質であることに耐えられるかどうかというのは、すごい重要だよね。逆に、みんなに好かれてるプロデューサーってのは、大抵ろくなもんじゃないと思う。「あの人ってほんと嫌なやつだね」って言われているようなプロデューサーこそ、作品歴を見てみると、意外と名作を作っていたりするんですよ。逆に、良い人だといわれてるプロデューサーほど、凡庸な作品しか作ってない。結局、プロデューサーが現場で嫌われていないってことは、仕事をしていないってことなんです。監督だって、悪人の方が良いっていうじゃないですか。それはやっぱり、良い人は映画なんか作る必要ないからでしょう。なんで良い人なのに、映画なんか作んなきゃいけないの? 良い人は普通に幸せになれるだろうし、素敵な家庭だって持てるだろうし。映画を作ろうなんて人は、正直言ってどこか欠落している人たちですよ。だから映画を作ることで、それを埋め合わせるというか、補ってるんだと思いますよ。

ーー最後に相談なんですが、僕が今進めてるドキュメンタリー映画の被写体が高齢のミュージシャンで、体調も崩してる方なんです。先日監督と今後の相談をしてて、「縁起でもないけど、亡くなった後の動きを追うことになるかもね」という話になり、僕らは人の死を願ってるわけでは無いけど、それを映像作品にしてしまって良いのだろうかと思ってしまってるんです。

甘木:それは偽善ですよ。人は誰もが死にますし、死はアンタッチャブルなことではないと思います。むしろ、その瞬間を映画として作品に刻めるなら、それを本人が望むなら、やるべきじゃないでしょうか? 僕も『監督失格』を作る時は、平野勝之に「由美香さんの遺体を発見するシーンの映像使用許可が遺族からもらえないなら、これは映画にはできないよ」とはっきり言いました。さっきのプロデューサーの資質の話にも繋がりますが、映画を作って、世間に批判される覚悟が無いのなら、そもそも映画を作るのは難しいですよ。

■甘木モリオ
1962年、福岡県出身。横浜放送映画専門学院(現日本映画大学)卒業後、映画業界へ入る。黒沢明監督『乱』、佐藤純弥監督『敦煌』などの製作部を経て、周防正幸監督『ファンシーダンス』をきっかけにプロデュサーへ転身。1994年、プロダクション シネバザールを設立。『平成ガメラ三部作』や『ラブ&ポップ』『春の雪』など幅広いジャンルを手掛ける。40歳を機に改名。以後、甘木モリオを名乗る。近年では『パコと 魔法の絵本』『20世紀少年』『太平洋の奇跡』『監督失格』『私の奴隷になりなさい』『へルタースケルター』などをプロデュース。株式会社シネバザール代表取締役。

■高根順次
スペースシャワーTV所属の映画プロデューサー。『フラッシュバックメモリーズ3D』、『劇場版BiSキャノンボール』、『私たちのハァハァ』を手掛ける。

■甘木モリオ最新プロデュース作
『ちょっと今から仕事やめてくる』
2017年初夏 全国東宝系にて公開
出演:福士蒼汰、工藤阿須加、黒木華、小池栄子、吉田鋼太郎 ほか
監督・脚本:成島出 (『八日目の蝉』、『ソロモンの偽証 前篇・事件/後篇・裁判』ほか)
脚本:多和田久美(映画『草原の椅子』、ドラマ WOWOW「向田邦子 イノセント/2・3話」)
(C)2017『ちょっと今から仕事やめてくる』製作委員会

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