『君の名は。』現象の中心で、『後妻業の女』の健闘について考える

『後妻業の女』ヒットが意味するもの
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 もはや本コラムのような映画サイトのトピックという枠を超えて、テレビのニュースなどでも報じられるレベルの今年最大級のヒットとなっている『君の名は。』。公開2週目の週末となる先週土日2日間の動員86万7000人、興収11億6000万円。この数字は、公開初週の約125%という驚異的な数字。公開から10日目の日曜日の時点で興収38億円を突破するという、ヒットの規模もそのスピード感も前例が見当たらない凄まじさ。この勢いは日本列島に台風が連続して到来している今週のウィークデイも継続中で、「はたして興収100億を超えるのか?」ではなく、「興収100億を超えるのは公開何日目か?」という段階に入りつつある。

 『君の名は。』の大ヒットで注目すべきなのは、主にSNSにおける口コミを原動力とする「作品のイベント化」によって、「これまで映画館で映画を観る習慣がなかった層」が映画館に大勢押し寄せていることだろう。過去、興収100億水準の作品は幅広い年齢層から支持されることがマストであったが、『君の名は。』は「若い層を中心に動員」(映画.com)「10代のグループや、友人連れ、カップルで来場している観客が多いのが特徴」(ぴあ映画生活)などと劇場の出口調査も報じている通り、観客層の中心は10〜20代に偏っている。近年、日本の映画会社は10〜20代の観客層を想定して少女マンガなどを原作とするいわゆるティーンムービーを量産してきたが、それらのティーンムービーはどんなにヒットしてもその上限は興収25〜30億程度であった。しかし、同じ層の観客を中心としながら、『君の名は。』はその上限をはるかに超えるヒットを記録しているのだ。また、ヒットの要因の一つとされている主題歌&劇伴を担当したRADWIMPSの直近のオリジナル・アルバムは10数万枚しか売れていないが、『君の名は。』の動員は最終的にその何十倍もの数字になることが想定される。『君の名は。』はそうした「映画館にも行かないしCDもほとんど買わない」、潜在的に存在していた膨大な「若い観客」を掘り起こすことに成功したのだ。

 ただ、これほどの空前の大ヒット作が出てしまうと、同時期の公開作に「割を食ってしまった作品」が出てくることになる。『君の名は。』以前に現象化していた『シン・ゴジラ』は、引き続き2位と、その難を免れて相変わらず堅調に動員・興収を伸ばしているが、初登場3位のあと、2週連続で5位につけている『青空エール』は、観客の年齢層が完全にかぶってしまったことで、その上質な仕上がりにもかかわらず期待を下回る累計興収に終わりそうだ。

 一方、動員ランキング的には『青空エール』と大差がないようにも見えるが、先週に引き続き4位の『後妻業の女』は、『君の名は。』の観客層とはまったくかぶりようのないシニア層の観客からの支持を受けて、今週に入ってからも順調に動員・興収を伸ばしている。興収から動員を割り出すと、そのシニア料金の割合の高さに驚かされるが(発表されている初週土日2日間の興収を動員で割ると平均入場料金は1.174円)、実際、ウィークデイの昼間の成績ではコンスタントに『シン・ゴジラ』を上回っており、SNSとはまったく別の場所における文字通りの口コミ効果もあってロングヒットの兆しも見せている。ちなみに、『後妻業の女』は別にシニア向けの作品というわけではなく、万人向けのとてもよくできた娯楽作品なので、本コラムの読者も是非劇場に足を運んでもらいたい。

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