松江哲明の『ゴーストバスターズ』評:エンタメの力で事前の評価を覆した、意義のあるリブート作

松江哲明の『ゴーストバスターズ』評


 しかし最近、70〜80年代のリブートばかりが当たっているのは、気にかかっています。というのも、こうした作品が増えているのは、オリジナル作品のアイディアが無くなっているということでもあると思うんです。リブートって、安易に続編を作って大失敗するより、ずっとリスクが少ないですから。『アメイジング・スパーダーマン』も3ではなく、さらにリセットする方向にしましたよね。最近だと『インデペンデンス・デイ: リサージェンス』が前作の続編として作られましたが、あれは失敗だったと思います。前作の設定やストーリーを引き継ぐことで、流れが悪くなった典型です。そうしたことを考えると、一から作り直したほうがうまくいく可能性が高い。ハリウッド映画の規模が大きくなって、製作費も膨らんだことで、確実にヒットする保証がある企画が求められていて、それに適しているのがリブートなのでしょう。映画の未来にとって必ずしも良い状況とは言えないですよね。ただ、80年代の作品をリブートし尽くして、今度は90年代作品をリブートしようとしたとしても、その頃にはCG技術が一気に発展するから、いま作り直してもさほど新しいものにはなりにくいと思います。80年代は、まだSFXが未成熟だったからこそ、リブートも作りやすいんでしょう。当時のアナログな技術との落差を出しやすいですから。

 『ゴーストバスターズ』の場合は、単に映像的にオリジナルを刷新しただけではなく、中年女性たちを主人公にしたことで「はぐれ者たちの部活感」がより強まったと思います。オリジナルには若干残っていた恋愛要素を、今回はまったく無しにしたのが素晴らしいと思いました。彼女たちはとくに明確な目標とかを持っていなくて、言ってみれば『グーニーズ』や『スタンド・バイ・ミー』で男の子同士がワイワイやっている感じに近い。いつ作ってるんだ、ってくらいに新兵器が登場するんですが、作る過程よりも、その効果を試す方に描写が凝ってるんです。「この武器、やばくね」みたいなノリで、きゃっきゃ遊んでて。それが女子会みたいな感じなんですよ。僕は参加したことないので、妄想で言ってるんですが(笑)。それと女性が主人公の映画って、恋愛物語になりがちだけど、色恋沙汰ばかりが人生じゃないんですよ。『はじまりのうた』もそうでしたが、最近、恋愛がクライマックスにない映画が増えてきたことは嬉しいです。もし『ゴーストバスターズ』でクリス・ヘムズワースとクリステン・ウィグが恋愛に発展したら、僕はがっかりしていたと思います。「観客層を広げにいきたがったな」って。そうすることで本作の魅力の何割かは確実に減っていたと思います。

 今回のリブートは時代と向き合った意義のあるものだったと思います。ここまで社会問題になると、作品が負けてしまう場合が多いのですが、本作はそこを突き抜けた力強い、けれど問答無用で笑える作品なのでぜひ観てほしいです。アメリカのコメディの凄味を感じました。

(取材・構成=松田広宣)

■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』の監督を山下敦弘とともに務める。最新監督作は、テレビ東京系ドラマ『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』。

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■公開情報
『ゴーストバスターズ』
8月11日(木・祝)~14日(日)先行公開
8月19日(金)全国公開
監督:ポール・フェイグ
製作:アイヴァン・ライトマン
出演:クリステン・ウィグ、メリッサ・マッカーシー、ケイト・マッキノン、レスリー・ジョーンズ、クリス・ヘムズワース
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:GHOSTBUSTERS.JP

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