ごく普通の高校生の経験が、ひとつの映画になるまでーー『奇跡の教室』監督インタビュー

『奇跡の教室』監督インタビュー

「現在のフランスの教育はかなり複雑なものになっている」

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ーーアハメッドもそうですが、生徒たちの演技にはリアリティがありました。彼らにはどのような演出をされたのですか?

シャール:撮影前にとにかく生徒たちとたくさん話をしました。演技経験のない子どもたちにいきなり演技をさせると、緊張してパニックになってしまうこともあると思ったので、まずは彼らがどういう人間なのか、話し合いを重ねながらそれぞれの性格を知っていきました。そして、彼らの元の性格に合わせた役をそれぞれ演じてもらったのです。なので、演じるというよりかは、そのままの自分たちでいてもらうことを意識しました。それに、知らない者同士が学校で出会ったら何が起こるかを大切にしたかったので、撮影前に生徒たちが出会うのはなるべく避けるようにしましたね。

ーーイスラム教徒の生徒と学校の先生が、頭に巻いたスカーフを巡って対立する映画の冒頭シーンにも現れているように、今回の作品には現在のフランスの教育の現場で起こっていることに対する社会的なメッセージも含まれていると感じました。

シャール:今回舞台になっているレオン・ブルム高校は公立高校なので、無宗教ということが大前提にあります。イスラム教はほかの宗教と比べて、目に見える部分での象徴性が高いので、どうしてもそういった問題が起こりがちなのです。ただ、このような生徒と学校側の衝突というのは、もっとたくさんある学校もあれば、ほとんどない学校もあります。映画で描かれているのが平均的だと言えるかもしれません。日本の教育がどのようなものか私にはわかりませんが、現在のフランスの教育はかなり複雑なものになっています。教えることが容易ではない時代になっているのです。昔は、先生が言ったことに対して生徒が言い返すというようなことはありませんでしたが、今では言い返すばかりか、授業を進めることを妨害するような生徒もいて、“教える”こと自体が難しくなってしまっています。一方、私は教育にも落ち度があると思っています。子どもたちに細かいところまで学習させすぎていて、根幹にある一番大切なことが伝わりにくくなっている。そのあたりも含めて、現在のフランスの教育現場が解決すべき問題はまだまだたくさんあるのです。

(取材・文=宮川翔)

■公開情報
『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』
8月6日(土)YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町、角川シネマ新宿ほかにて全国順次公開
監督:マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール
脚本:アハメッド・ドゥラメ、マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール
出演:アリアンヌ・アスカリッド、アハメッド・ドゥラメ、ノエミ・メルラン、ジュヌヴィエーヴ・ムニシュ、ステファン・バック 
配給:シンカ   
2014年/原題:Les Heritiers/105分/フランス語/シネスコ
(c)2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINEMA - ORANGE STUDIO
公式サイト:kisekinokyoshitsu.jp

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