『アンパンマン』映画、少子化でも絶好調の理由ーー“映画館デビュー”支える仕組みと安定の作風

 こういったアンパンマンでの映画館デビューを応援する取り組みというのは、おとなしく映画を観ることを学ばせる躾の一環だけでなく、大勢と大画面でひとつの作品を楽しむという、映画本来の娯楽性を存分に味わう経験になるというわけだ。そしてもちろん、以前から一部の劇場で行われてきた、場内を完全に真っ暗にしないで上映する劇場も増えたことで、上映中の出入りもしやすくなっている。これは子供にとっても、映画館という空間に馴れるきっかけとなるし、保護者からしても安心である。

 アンパンマンの人気を支えているのは、そういった興行側の努力の賜物だけではない。2013年に原作者のやなせたかしが亡くなってからも、作り手はアンパンマンの持つ世界を一ミリも動かすことなく守り続けているのだ。変わらないでいてくれるから、アンパンマンを観て育ってきた世代が親となっても、子供たちに受け継いでいきたいと思うのである。おそらく、ちょうどアンパンマンを通ってきた世代の多くが、ここ数年で親になってきたことが、人気再燃の一因になっているのだろう。

 改めてアンパンマンを観てみると、「笑顔」と「勇気」というふたつのメッセージで、大人になるにつれてどんどんぼんやりとしてしまう、すごく人間らしい素直な気持ちを思い出させてくれるのである。昨年の作品と今年の作品は、もうやなせたかしの原作を基にしていないオリジナルの作品だというのに、筆者が子供の頃に観ていたアンパンマンと何も変わっていない。このまま変わらずに何世代にも愛されていく作品になってほしいと思うばかりである。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

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