『アリス・イン・ワンダーランド』続編、前作から初動興収68%ダウンの衝撃

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 これは事件と言っていいだろう。今年に入って最大規模となる全国979スクリーンで公開された『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』は、公開初週の土日2日間、動員27万3209人、興収4億2545万7700円という成績に終わった。これは、2010年に公開された前作『アリス・イン・ワンダーランド』と比べて、動員比で約33%、興収比で約32%という数字。6年という続編公開までのインターバルを短いとするか長いとするかは意見の分かれるところだろうが、いずれにせよこの規模の超大作の続編でここまで大幅ダウンした作品というのは前例が思い浮かばない。

 前作との比較という点では、ある程度の苦戦は予想できた(もっとも、スクリーン数は前作の855スクリーンから大幅に増えているのだが)。まず、前作の記録的ヒットは、公開タイミング的に、その4ヶ月前に公開された『アバター』の社会現象化によっていきなり巻き起こった3D映画ブームの恩恵を大いに授かったものであったこと。この頃、人々は『アバター』に続く本格的な3D映画を熱望していたのだ(あの3D映画熱は一体何だったんだろう?)。また、日本におけるジョニー・デップの異常人気が、2010年にはまだ続いていたこと。『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』の本国での公開タイミングを狙いすましたように全世界で報道されたジョニー・デップのDVスキャンダルについては、まだ真相が明らかにされていないので言及は避けるが、あのスキャンダルがあってもなくても、日本でのジョニー・デップ人気はここ数年すっかり落ち着いたものになっていた。

 それにしても、動員、興収ともに70%近くダウンするというのは、大方の予想を超えていたのではないか。ディズニー作品としては『ズートピア』が大ヒットしたばかりで、劇場での予告編上映によるプロモーションも、本来ならかなり効くはずの公開タイミングであったにもかかわらずだ。きっと、その効果は来週末公開のディズニー配給ピクサー作品『ファインディング・ドリー』が一人占めすることになるはずだ。

 そう考えると、『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』不調の最大要因は、アメリカ本国での不評が日本の観客の耳にも届いたということだろうか? ここでいう「不評」とは、批評家のレビュー内容(必ずしも否定的なレビューばかりではなかった)というよりも「大コケした」というニュース自体のことだが、それについて自分は懐疑的である。これまで、「本国で大ヒットしたのに日本では全然当たらなかった続編」や「本国で大コケしたのに日本では大ヒットした続編」の例は、いくらでも挙げられるからだ。基本的に、日本人観客のマジョリティーは、海外におけるその作品の興行成績や評価に関して無関心だった。逆に言えば、それだけ映画会社にとっては独自の手法による宣伝展開のしがいがあったということだ。

 しかし、もしかしたら情報の主流が電波媒体や紙媒体からネットに移行したことによって、その「海外での成績や評価に無関心」層に変化の傾向が表れてきたのかもしれない。もはや映画会社には情報のコントロールなどしようがなく、日本での公開前にネット上では「『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』不調」のニュースが広く出回っていたからだ(その情報が拡散してしまった要因の一つには、ジョニー・デップのスキャンダルの悪影響もあったと言えるだろう)。もしそうだとすると、今後このような事態を避ける有効な方法が一つある。日本公開をアメリカよりも早めて先行公開とするか、遅くとも同時公開にすればいいのだ。自分のような業界人にとっては「それだと字幕が間に合わなくて試写が回せない」というデメリットが生じるわけだが、それを差し引いたとしても、一人の映画ファンとして先行公開や同時公開はワクワクするものだ。

 今年6月、アメリカで大コケ、しかし中国で記録的な大ヒットとなったことが世界的なニュースとなった『ウォークラフト』(日本では7月1日公開)も、調べてみたら中国での公開の方がアメリカよりも2日間早かった。ネットに「本国で大コケ」情報が出回る頃には、それ以上のビッグ・ニュースとして中国国内では「空前の大ヒット」の様子が報じられて、その勢いで現象化してしまったのだろう。また、中国はネットの規制が厳しいので、独自のマーケットが形成されやすいという側面もあるのかもしれない。

 もちろん、「海外での大ヒットを受けて、それ相応の宣伝予算がついて、数ヶ月後に日本でも大ヒット」という一つの「外国映画興行の理想形」は、この先もなくなることはないだろう。しかし、『アリス・イン・ワンダーランド』のように前作が日本で超特大ヒットを記録していて、既に作品認知度の高い作品の続編に関しては、「先行公開」の方がメリットは多いのではないか。まぁ、そうしたくても、いろいろ事情があってそうはできないことも多々あるとは思いますが。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮新書)発売中。Twitter

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