日本と海外、ドラッグムービーの描き方はどう違う? モラルとインモラルの境界を探る

日本と海外ドラッグ映画の違い

 ドラッグは映画の題材になるだけではなく、映像表現の手法に活用されることがある。ヒッチコックが悪酒に酔い朦朧とした経験をもとに『めまい』ショットを開発したように、作り手たちはトリップ体験をそのまま表現できないかと試みてきた。『地獄の黙示録』の狂気めいた画面にはドラッグの香りが濃厚にたちこめていたし、90年代後半の青春ドラッグムービーの金字塔ダニー・ボイルの『トレインスポッティング』や、アロノフスキーの出世作『レクイエム・フォー・ドリーム』は題材から映像までトリップを疑似体験させるようなフォルムを押し出し、ユースカルチャーに溶け込んだ。最近でいえばクリストファー・ノーランの超次元映画『インターステラー』のようなSF大作にも、ドラッグのトリップ感覚からの影響が十分に指摘できる。また西欧だけでなく、アジアにだってトリップムービーは見られ、中でもアピチャッポン・ウィーラセタクンの映画にはそうした感覚がナチュラルにあるのではないか。と、以上はあくまで推論に過ぎないのだが……。

 このような映画群がもつドラッグの感覚を現在の日本映画に持ちこめるかどうかはわからないし、そもそも必要だとも限らない。だがやはり、真利子哲也監督の『ディストラクション・ベイビーズ』の暴力描写にあったような、モラルのラインを軽々と超えた快楽性は映画を面白くするに違いないのだ。真に危険な和製ドラッグムービーが生まれてくる日は近い、だろうか。

 なお、本稿は間違っても薬物使用を推奨するものでなく、映画中毒への勧めである。

■嶋田 一
主に映画ライター。87年生まれ。

■公開情報
『日本で一番悪い奴ら』
公開中
原作:稲葉圭昭「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」(講談社文庫)
監督:白石和彌
出演:綾野剛、中村獅童、YOUNG DAIS、植野行雄(デニス)、ピエール瀧
(c)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会
公式サイト:www.nichiwaru.com

『ケンとカズ』
7月30日より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
監督・脚本・編集:小路紘史
出演:カトウシンスケ、毎熊克哉、飯島珠奈、藤原季節、髙野春樹、江原大介、杉山拓也
(c)「ケンとカズ」製作委員会
公式サイト:www.ken-kazu.com

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