戦争は人々からなにを奪ったのかーー『とと姉ちゃん』小橋家の苦しい生活が伝えるもの

「どこもかしもひどいありさまさ。火と煙と死体と悲鳴。どこに行ってもそれがつきまとう。しまいには何とも思わなくなっちまったけど……」

 お竜は腕を怪我していた。二人組の男に襲われたからだ。

「今までは男に負けないつもりでいたけど、本気で来られたら、とてもじゃないが太刀打ちできない。女なんて弱いものだ。そう考えるとあたい一人であいつら守ってあげられるかどうか」

 隣組の組長もそうだが、『とと姉ちゃん』では、高圧的な態度で女性を恫喝する男の姿が繰り返し描かれている。だからこそ、父の竹蔵(西島秀俊)や星野武蔵(坂口健太郎)の優しい語り口の男たちが印象に残るのだが、おそらく本作には男の暴力性自体がテーマとしてあるのだろう。

 以前、登場した時は男とも対等に渡り合う不良少女だったお竜が、男に対する恐怖心を語る場面を見ていると、戦争によっていかに人間の暴力性がむき出しとなるのかがよくわかる。それは、空襲に乗じて泥棒が流行っているという噂話にもつながっていく。繰り返される空襲の中、防空壕に避難する常子は、家の方で音が聞こえて、誰か男の人がいるのではいかと思う。お竜の言葉を思い出し、暴漢に襲われる恐怖を感じる常子。しかしそこに居たのは音信不通だった叔父の鉄郎(向井理)だった。事業に失敗して農家で働いていた鉄郎は、たくさんの食料を持ってきた。男の鉄郎がいっしょに暮らすことで、小橋家の不安は少しだけ解消される。

 終戦を迎え、不謹慎だと思いつつも「やりたい雑誌が作れること」に喜ぶ常子。一方、花山伊佐治(唐沢寿明)は険しい顔で終戦の知らせを聴いている。彼は一体、何を思うのだろうか。物語はここで折り返し地点を向かえ、次週から戦後編がはじまる。いよいよ常子は出版社設立に向けて動きだすのだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
『とと姉ちゃん』
平成28年4月4日(月)〜10月1日(土)全156回(予定)
【NHK総合】(月〜土)午前8時〜8時15分
[再]午後0時45分〜1時ほか
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/totone-chan/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる