『ゆとりですがなにか』は宮藤官九郎の大きな転機にーー幸せな幕切れが示したメッセージ

『ゆとりですがなにか』最終話レビュー

 しかし他の宮藤作品と違うのは、今まで全面に出ていたコメディテイストが後退し、坂元裕二・脚本のドラマ『Mother』や『Woman』(ともに日本テレビ系)を手掛けた水田伸生の社会派テイストのシリアスな演出が正面から打ち出されていることだ。そのことによって、今までのクドカンドラマにあった、なし崩し的にみんなが仲良くなってしまうことで、避けているように見えた「悪の問題」をうまく補っている。

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 特に、当初の山岸の「ゆとりモンスター」ぶりは、今までの宮藤ならコメディとして流して深く踏み込まなかった悪の領域だ。しかし、それこそ坂間たちのように、山岸から目をそらさずに、じっくりと向き合ったことで、どこか軽いものに見えていた宮藤の人間観に重みをもたせることに成功した。

 本作で宮藤は根っからの悪人はいないが、人の心の中にある弱さとしての「悪」を、最初に描いた。それを踏まえた上で、山岸たちゆとり世代の後輩を、ただの悪役として切り捨てるのではなく、理解できない他者でも、じっくりと向き合っていけば、どこかで分かり合えるのではないか? ということを通して見せたのだ。

 また、サブカルネタを全面に打ち出すことで、閉じた仲間同士でわいわいやる内輪ノリを作り出してしまう狭さも、ゆとり世代を入口にしながらも、年上世代と交流させたことで、作品に広がりを持たせていた。つまり、過去作と同じことをしながら、より普遍的な問題を扱った間口の広いものとなっており、宮藤のメッセージ性がよりストレートな形で現れたドラマに仕上がっていた。おそらく今後、宮藤にとって大きな転機となった作品として本作は語られることになるのだろう。

 紆余曲折あったものの、最終的に坂間と宮下茜は結婚する。その後、坂間はみんみんホールディングスに純米酒「ゆとりの民」を売り込みに行く。後ろめたい早川が、坂間酒造と専属契約を交わす場面は毒が効いているが、山路は佐倉悦子(吉岡里帆)と親密になり、まりぶもユカと婚姻届を出して、身の丈にあった大学に合格する。最終的に全員が収まるところに収まる幸せな幕切れだった。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
日本テレビ系日曜ドラマ『ゆとりですがなにか』
出演:岡田将生 松坂桃李 柳楽優弥 安藤サクラ 吉田鋼太郎
脚本:宮藤官九郎
「ゆとりですがなにか」公式サイト
(C)日本テレビ

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